図書館で借りた本。昭和55年発行。いやあ、面白かった。
はてブで、「今の学生は忠臣蔵も知らない」というトゲッターに俺は「今の若者は真田十勇士も知らない」とコメントしたのだが、実は俺も真田十勇士は知らないのであった。
そこで、立川文庫のことでも調べるかと思ってこの本を借りたのである。ところがタイトルこそ「立川文庫の英雄たち」であるが、内容的には立川文庫以前の講談速記本や、立川文庫以前の真田幸村伝説、一休禅師の説話などから始まり、最後は「女紋」の作者の池田蘭子まで書かれていて、それがみんな面白い。
ただし、立川文庫関連の資料は主に「女紋」によっているようだが、俺は必ずしもすべてが真実だとは限らないと思っている。
どうしても最後の部分の印象が強いので、先に書くとこの池田蘭子は身長1.3メートル体重44kgと書かれている。そして「齢を取らない蘭子」と描写されているので、今のオタク界隈でいうならロリババアである。子供の頃に事故に会って脊椎を損傷した結果の低身長らしい。立川文庫以後の蘭子の人生も面白いのだが、それはそれとして蘭子の書いた自伝的小説「女紋」が立川文庫時代の話である。「女紋」の中では蘭子は伊知という名である。小学生で立川文庫作者グループに参加というか、ルビを振る役だったらしい。総ルビだから作業量は多いと思う。
この「女紋」というタイトルも、立川文庫の表紙に揚羽蝶の押絵がついているが、それは蘭子の祖母山田敬の家山田家の女紋だからだという。ただし、これは池田蘭子の言い分で、立川側の資料では袖珍文庫の銀杏を蝶に変えたものだそうだ。
なにしろ関係者が講談師側、立川文庫の執筆者なので、言っていることが盛られている可能性は大きい。
この本は作者のあとがきも面白くて、これまでに立川文庫について調べて何度も書いてきたが、新しい事実が判明して前の事は間違っていたからすべて忘れてくれと書いたけれど、それもまた間違いであったことが分かった。そう書いた記事にもやはり間違いがあって、訂正したけれど、それにも間違いがあった、というような事が書かれている。
立川文庫を集めている作者でも初版本はほとんど手に入らず、重版したものを資料にしているが、その重版本に書かれている奥付が信用できないという。つまり、重版本の奥付にある初版の日付が正しくないというのだ。立川文庫の内容もいい加減なものだが、奥付までもいい加減なのである。物凄く売れて、ものすごい勢いで出版しているので、細かいことにはこだわらないのであろう。
さて、本来の真田十勇士であるが、これもいろいろある。まず、立川文庫では最初の猿飛佐助の巻には「真田家三勇士」と書いてある。最初は三人くらいがいい。この三人は猿飛佐助、由利鎌之助、霧隠才蔵である。一方、立川文庫以前の江戸時代の真田幸村ものでは、真田幸村と七人の影武者という構成が主体だったようだ。
しかも江戸時代の話では、真田幸村は真田幸村ではない。つまり江戸時代だから豊臣方の真田家の話はお上に都合が悪いのである。「義経新高館」という浄瑠璃は表向きは義経の話だが、これが実際には大坂夏の陣の話であるという。この頃から真田幸村には七人の影武者がいるという物語が広まり、同時に幸村生存説にもなる。勇猛な戦記ものなので影武者も大人しく裏方を務めている訳ではなく、果敢に戦うようだ、つまり七人の勇敢な部下ということだろう。
真田十勇士は完全に立川文庫の創作らしい。キャラがどんどん増えていくというのはエンタメの宿命か。
また、立川文庫の最初の真田家三勇士には三好清海入道は入っていないが、猿飛佐助、霧隠才蔵、三好清海入道を西遊記の孫悟空、沙悟浄、猪八戒に、真田幸村を三蔵法師になぞらえているという。
立川文庫の人気は猿飛佐助の忍術が人気で忍者ブームとなったとある。ただし、第一次忍術ブームは江戸時代にあって、それは歌舞伎の演出(道具立て)が派手になって忍術を演出出来るようになったから。立川文庫は文章だが、この時期に映画が一般化して立川文庫を元にした(特撮)映画が作られこれが第二次忍術ブームを煽ったようだ。第三次は戦後の漫画から。作者が書いているのはここまでだが、もしかしたら第四次は忍者のグローバル化ではないかと俺は思っている。歌舞伎、映画、漫画ときてWizardryなどのゲームがグローバル化に繋がったとこじつければ、話が面白いではないか。
というわけで大満足の一冊であった。
以下は妄想である。立川文庫の成立には女性の山田敬が重要な役割を果たしているし、「女紋」の作者は障害者で女性の池田蘭子(子供の頃はうまく歩けなかったようだが、成人してからは低身長以外は問題なかったようだ)、第二次忍者ブームの話などをうまいことエンタメ作品に出来ないだろうか。フェミニズムや多様性をテーマにしたエンタメ作品という建前で、忍者を中心にラノベやなろう系小説、アニメまで歴史を描くのである。自分でやると考えるとメンドクサイけど、敏腕プロデューサーがうまいこと政府を騙して金を取ってくるとかすれば大作アニメに出来る気がする。