全体の中盤、第二の主人公蕭峯が宋を出て女真、遼で活躍する前半から、S女とM男のSMを中盤に挟んで、後半から第三の主人公虎竹と第四の主人公慕容復が登場する。慕容復は名前だけは二巻から登場していたけど、本人が登場するのはこの五巻から。いろいろな悪事の裏にいるのかと思っていたら、そうでもないような印象。主に虎竹の話で、慕容復は顔を見せただけのようだ。第一の主人公段誉がめろめろな王語嫣が慕容復にめろめろなので、今風に言えばネトラレか。
虎竹は少林寺の僧だが、武芸はからきしで、性格的にもなかなかすっきりしない。段誉も武芸は出来ないわけで四人の中で二人が武芸は駄目で、二人が達人という組合わせである。でも段誉は(女性に対する)情熱の人だが、虎竹は……まだよく分からない。
この巻で面白いのは、丁春秋の率いる星宿派という武芸の一派である。丁春秋は武芸の達人なのだが、弟子はなんか情けない印象で、師匠を褒め称える口先ばかりの連中。いや、丁春秋がお追従を強要しているというかお追従を言わないと殺してしまう。そして弟子がつまらないお追従を言うと大喜びするという。
また、詰碁の問題を解いた者に武術の極意を授けるというような話(雑な要約だ)があって、その問題を解くのが虎竹なのだが、虎竹は碁についてほぼ素人で詰碁を解くつもりはなく、争いを止めるためにデタラメに打った一手であった。それはその場の碁の名人たちがみんな笑うような悪手なのだが、その後に打ち続けていると実は妙手だったと分かるのである。牽強付会すれば、最近のAI囲碁を予言しているようでもある。
そして武術の極意もその流派の修行を積んだ者には、積み重ねた修行によって考え方が型に嵌っているので、最高の極意を身につけるのは難しい、一度身につけた型から外れる必要があるみたいなことを言っていたりする。
まあ、武侠小説の武術はほとんど忍術のようなもので現実にはありえないけど。