ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

創作:怠け者の獄卒

「なあ、お前、非番じゃないだろう。こんなところでサボっていていいのか」
 血の池で釣りをしている青鬼に赤鬼が言った。二人とも地獄の獄卒である。
「いいのいいの。獄卒がサボれば亡者は喜ぶ」
「亡者を喜ばしちゃいかんだろう」
「赤鬼はマジメだなあ」
「仕事はきちんとやるべきだ」
「そんなにマジメに働いて何になる」
「働いても何にもならんかも知れんが、サボってたら地獄に落ちるぞ」
「もう地獄にいるわけだが」
「獄卒でなく亡者として地獄に落ちて苦しむことになるぞ」
「だけどなぁ、マジメに仕事しても地獄に落ちるんじゃないかと思うんだよ」
「なんで」
「虫を一匹殺しても地獄に落ちるんだぜ。まして、俺たちは毎日毎日亡者を責めて責めて苦しませているんだ。そして亡者も最後には死ぬ。簡単には死なないけど、最後には必ず死ぬ。俺たち獄卒が責め殺したってことだ。地獄に落ちないわけがない」
「確かに亡者は死ぬけど、獄卒は死なないだろう」
「さっき地獄に落ちるって言ったじゃないか。いや、確かに獄卒は亡者以上に長生きだけれど、必ず死ぬ。命のあるものはどんなものでも、死んでは生まれ変わり、死んでは生まれ変わりを繰り返していて、そこから抜け出すのは解脱するしかない。それが基本法則だ」
「まあ、そうだな。でも仕事だから猶予されるんじゃないか」
「そんな例外はないんだな。現に暗殺者やなんかで仕事で人を殺した亡者がこの地獄にもいるじゃないか。バラモンが屠殺業なんかをパンチャマに命じてやらせておいて、それでパンチャマは殺生の罪で地獄に落ちるっていうぜ。屠殺業だけじゃない、農業だって虫を殺すからみんな地獄に落ちる」
「それは別だろう。俺たちは閻魔大王の命令で獄卒をやってるんだから、それで地獄に落ちるのはおかしい」
「まあ、俺も閻魔大王とか、仏とか菩薩とかに直接言われたら考え直すよ。が地獄にやってきて、俺に向かって、『サボっているんじゃない! もっとマジメに亡者を責めなさい。鞭打ちなさい。苦しめなさい。血を流しなさい。悲鳴を上げさせなさい』って言うならそれに従うよ」
「言わんだろう」
「だろう。つまりはサボっても問題ない。いや、サボった方がいいってことだ」
「そうかなぁ」
「そうさ。獄卒が怠ければ、俺たちは楽が出来る。亡者は苦しまずに済む。仏や菩薩はそれを見て慈悲の心が叶う。誰も損をしない」

「しかし、お前も以前はマジメに亡者を責めていたじゃないか。どうして考えが変わったんだ」
「俺は地獄を抜け出して、人間道に転生したいんだよ」
「なんでまた。人間道に転生してもすぐに地獄に落ちるだけだぞ」
「人間道でやりたいことがあるんだ」
「何だ、それは」
「飯を食いたい」
「飯なんて地獄でも食えるじゃないか」
「俺は聞いたんだよ」
「何を」
娑婆の飯はうまいって」