昔、賀陽(かや)の親王(みこ)という方がいました。
もう異世界だかタイムトラベルだか分からんのだが、タイムトラベルからパラレルワールドが発生するなら、それはもう異世界に他ならない。
その親王はある侍女に目をかけて、慈しみお使いをさせていた。特別な寵愛のある侍女だと知らないようで、ある男がこの女を口説こうとしていた。
更に別の男が、そういう事情を聞き知って、女に手紙を出した。手紙にはホトトギスの絵を描いて歌を添えた。
ほととぎす汝が鳴く里のあまたあればなほうとまれぬ思ふものから
あなたは(托卵のために他の鳥の巣をたくさん訪れる)ホトトギスのように、いろいろな男の人に好かれているので、あなたに魅かれる気持はあっても、本気で好きにはなれないのです。
女は男の機嫌を取る歌を返した。
名のみたつしでのたをさは今朝ぞ鳴く庵あまたとうとまれぬれば
単にいろいろな男性から好意を寄せられているだけで、実際に付き合っている訳ではないのに、悪い噂ばかり流れて死出の田長なんて言われているホトトギスに例えられる私は今朝も泣いています。多くの男性と付き合っていると嫌われているので。
季節は五月で、ホトトギスが死の山からやってきて田植えの時機だと告げるという頃であった。男は歌を返した。
庵おほきしでのたをさはなほたのむわが住む里に聲したえずは
多くの男を付き合っているとか死出の田長とか、悪い噂があっても、頼りにしたいものです。私と絶えずに会ってくださるなら。
最初から男は女を誘っていたのである。そうでなければ手紙など出さないはず。多くの男と付き合っているなら俺とも付き合ってくれるだろうという思惑が最初からあったのだろう。