昔、現代日本からこの世界に転移してきたおたく男がいた。武蔵の国に来ている時に、京の都の女に宛てて手紙を書こうとして、内容を考えていた。そろそろ京の都に戻ることを考えていたので、手紙で機嫌を取っておこうとしたのである。
武蔵の国の名物を歌に読み込みたいので「むさしあぶみ」とだけメモを書いた。それから、思い浮かんだフレーズである「気持ちを伝えれば恥ずかしい、伝えなければ苦しい」とメモした。これではまだ和歌として成立していないので、それをどう和歌にするか考えていた。
はずだったのだが、うっかり書きかけのメールを送信してしまったのだ。この世界に電子メールはないが、身の回りの世話をしている人が、字が読めないので下書きだとも知らずに、書きかけの手紙を出してしまったのである。
男は下書きがどこかに行ってしまったくらいに思っていたのだが、手紙を受け取った女はそうではなかった。なんか意味不明の手紙が届いて、その後にも説明の手紙も何もないので、女の方から手紙を書いた。
武蔵鐙さすがにかけて頼むにはとはぬもつらしとふもうるさし
武蔵鐙という謎の手紙を頂きましたが、それだけでは謎が解けません。でもそのパズルの謎を聞かないでそのままにしておくのはつらいし、かといって謎掛けの謎を説明して下さいと聞くのも面倒なことです。
女からの手紙を受け取って男は書きかけのメールを送ってしまったことに気付いて、耐えられないほど恥ずかしくなった。
とへばいふとはねばうらむ武蔵鐙かかるをりにや人は死ぬらむ
あなたがパズルの答えを聞くなら、答えましょう。聞かないで自分でも答えを出さないならパズルとして成立しないので恨みがましく思います。そんな武蔵鐙ですが、本当のことを言えばパズルではなくて書きかけメールを送信してしまっただけなので、恥ずかしくて死にそうです。