昔、現代日本からこの世界に転移してきたおたく男がいた。野蛮な東の国に行ったのだが、その途中で京の都にいる友だちに手紙を送った。
忘るなよほどは雲ゐになりぬとも空ゆく月のめぐり逢ふまで
私とあなたたちの距離は、空の高いところにある雲と地上程に離れてしまい、その地位も雲上人と地方官と大きく差がついてしまいました。しかし、空の月が欠けてもまた満ちるように、私もきっといずれは京の都に戻りますので、それまで私のことは忘れないでください。それから、私が京の都に戻ったときにはしかるべき地位に就けるように、うまく根回しをしておいて下さい。
おたく男もこの世界に馴染んで来て、色恋だけでなく政治的な地位にも関心が出てきたのである。雲の上に住む人になりたい。