更に迷いながらどんどん進んでいくと、武蔵の国と下総の国の間に大きな川が流れていた。それを隅田河という。そのほとりで、ようやくおかしいことに気がついた。
武蔵の国と言えば東京ではないか。隅田川もあるし。なのにこのさびれようはどうだろうか、とても都とは思えない。なんとなく思ってはいたのである。都とは京都ではないかと。でも異世界だし、道案内のお供の人はそこそこ自信ありげに進んでいくし、東京が都になっている異世界があってもおかしくないような気もしていた。でもやっぱりそんなことはなくて、まったく逆の方向に旅をして来たようだ。
こんなことなら、日本地図を持ってくればよかった。しかし、異世界転移で中世日本に行くとは思っていなくて、日本地図が役に立つとは思わなかったのだ。後悔しても遅いのである。これから異世界に転移しようとする人は、日本地図もヨーロッパの地図も持っていった方がよいであろう。
そんな風にお供の人と都が京都であることを再確認したりして、まったく逆の方向にずいぶんと遠くまで来てしまったものだと嘆いたりあきれたりしていた。
「さっさと船に乗れや、日が暮れちまうべ」
渡し守にそう言われても先に行くか戻るか悩んでいたが、急かされて考える余裕がなくなり、渡し舟に乗り込んだ。ちょうどその時、舟から一羽の白い鳥が見えた。嘴と脚が赤くて鴫くらいの大きさで浅瀬の水の上を歩き回って魚を食べている。鳥の名前なんて知らないので渡し守に尋ねると、「これこそ都鳥、別名ユリカモメだべさ」とドヤ顔で答えてきた。
そこでまた自動的に和歌が浮かんできた。
名にし負わばいざこと問わむ都鳥わが思う人はありやなしやと
都鳥という名前ならば、ブルーアーカイブの月雪ミヤコのその後のストーリーはどうなっているか知っているだろうか。
ユリカモメに乗って通ったコミケで様々な同人を買ったものだが、その中でも月雪ミヤコものの出来がよかったものである。あのサークルはいまどうしているだろうか、そして現代のゲームのストーリーにミヤコはまた登場しているのだろうかと転移前のおたく生活が思い出された。
たぶん、舟に乗っている他の客たちもそれぞれにみやこという名のキャラクターを思い浮かべたのだろう、みんなそろって涙を流した。ただ、渡し守だけは訳が分からなくてポカンとしていた。