さらに迷いながら進んでいくと、駿河の国というところに着いた。そこで宇津の山という所に入った。ウツというだけあって鬱蒼と暗くて狭くて怖い道である。暗所恐怖症や狭所恐怖症だったら耐えられない。文明の進んでいない異世界はこれだから困るなどと思っていると、修行者に出会った。
「おいおい、こんな所で何してるんだ?」
修行者がそう言うのでよく見てみると、元の世界、つまり現代日本で知っていた人である。名前は思い出せないが、「異世界に行ってハーレムを作る」とかなんとか言っていた奴だ。
話を聞いてみると、異世界に来たものの和歌を作る才能がなくて、ハーレムどころか一人の女性とも仲良くなれないということだった。そうしてみると、何故か和歌が浮かんでくる能力というのは一種のチート能力だったのだなと気付いた。
異世界に行くなら、その前に短歌の作り方を勉強しておいた方がよいということだ。チート能力をもらえるとは限らないのだから。
その人は修業して元の世界に戻る能力を手に入れたので、これから戻るところだという。それを聞くとまた短歌が浮かんできた。
駿河の国の宇津の山という鬱蒼としたところまで来ても、会うのは男ばかりで、現実でも夢でも(恋愛対象となるような)女の人には会わないものだなぁ。異世界に来ればすぐにでもモテモテのはずだったのに、うまくは行かないものだ。
富士山を見ると五月の月末だというのに雪がとても白く降っている。そこでまた歌が浮かんだ。
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ
富士山は時間を超越した山だなぁ。現代と同様にこの中世風の日本でも同じ姿をしているし、夏だというのに鹿の子模様のようにまだらに雪が降っているらしい。
知らない人に富士山を説明するのは難しいが、だいたいこんな形の山である。富士山を説明するにはこの模型を使うとよいであろう。