図書館で借りた本。広島市にはまんが図書館があるので漫画の蔵書は充実しているのだ(たぶん)。
パリオリンピック開会式絡みで、ヴァンデーの虐殺を扱ったこの漫画が話題になっていたので予約して借りたのである。
全6巻なので漫画としては読みやすい適切な長さだと思う。面白かった。たぶん傑作。
タイトルの「杖と翼」はどういう意味かと不思議に思っていたのだが、最終巻の最後の方(p203)でリュウからレオンへの言葉として出てくる。
でもおれたちは……たとえば暗い荒野で杖をついて一歩一歩足場をたしかめるように……長いあいだよりよく生きられる方法を探して地道でダサくて辛い遠回りをしながらだんだん強くて豊かな存在にもなっていくんだきっと……
だから人間の革命なら人間の弱さを認めて許すことも必要なんだ 恐怖政治はもうやめろ
美しい理想の翼でいきなり空を飛ばないで足許を見ろよ
あせって急ぐなよ
タイトルになっていることからも、これが作者のフランス革命に対する感想であると思われる。そして俺もこれには完全に同意する。フランス革命だけでなく、あらゆる理想に燃えた改革について言えることだと思う。
ヴァンデーの虐殺を扱っているし、それ以外に恐怖政治もテーマになっていて、革命に対して全面肯定とはなっていないが、結局はこの最後の「あせって急ぐなよ」というのが印象深い。
6巻の出版が2005年なので、木原敏江はこの作品を書いた時点で57歳、今の俺は還暦過ぎなので、若い人には年寄りの保守思想と思われるかも知れないし、若い人にあせるなと言ってもなかなか分かってもらえない気がする。理想を持つことは悪い事ではないと思うが、急激な改革は人を傷つけるのだ。それに急激な改革には反動もある。
また「翼」という言葉が否定的な意味で使われることは珍しいと思う。理想にばかり目を奪われるな、足許を見ろという意味で適切な比喩だろう。
なお、ストーリーは典型的な少女漫画で、主役のおてんばな少女アデルに二人の相手役の男性(レオンとリュウ)を配置してどちらからも大切にされるという流れ。後半にはベッドシーンもあるけど、朝チュンに近い。
俺は少女漫画もそこそこ読んでいるから、ふつうに少女漫画エンタメとして面白く読めたが、少女漫画に馴れていない人にはハードルが高いかも知れない。
アデルの不思議な力も、前半ではあまりストーリーに絡んでこないと思ったが、後半ではストーリーの重要な要素になる。
それでも、なんかすっきり終った感じがしないのは、もちろんフランス革命自体が、この後もごちゃごちゃと続くからであろう。