引き続き図書館で借りた世界の民話の中から面白かったもののあらすじを紹介する。
カビール:ディエーハ
はじめ、ディエーハはとても正直で働き者の男であった。
という文から始まる。そしてまさにその通りの話である。
ディエーハが牛を二頭連れて丘の上の畑を耕しに行く。すると二人のどろぼうがディエーハの牛を盗んでやろうと計画する。
まず一人めの泥棒がかごにイチジクを入れてディエーハに声をかけて安く売ってやる。イチジクを食べたディエーハは喉が渇いたので水を持っていないかと泥棒に尋ねる。すると泥棒は「さっき下の方の林の溝を通ったらそこで男が服を洗っていたよ」というのであった。ディエーハはその溝はいつも乾いていて水がないはずだが、洗濯していたなら水があるだろうと思い、泥棒に牛を見張っていてくれと頼んで、溝のところに行く。
泥棒は二頭の牛のうちの一頭を犁からほどいて追い立てて行った。
ディエーハが溝につくと、そこでは男(もうひとりの泥棒)が砂で服を洗っていた。砂で服を洗うなんて馬鹿だな、水がないから仕方がないのさ、というようなやり取りをして、ディエーハは水を飲めないまま丘に戻って行った。
丘のふもとまで来ると、一頭の牛が盗まれたことが分かったので、ディエーハはさっきの砂で服を洗っていた男を呼んで牛を見ていてくれと頼み、盗まれた牛と泥棒を追いかけた。
もう一人の泥棒もディエーハが丘のふもとまで去ると、牛を犁から外して盗んでしまった。そして二人の泥棒は合流して市に行った。
ディエーハは足跡を追っていたがやがて道に出て足跡がなくなってしまった。ディエーハは悲しくなって丘に戻ってきた。そしてもう一頭の牛も盗まれたことに気付いた。
ディエーハは丘の上で残った犁が盗まれないように一晩中見張りをした。そしてその間に考えた。これまで正直に、人を信用して生きてきたが、その結果牛を盗まれて貧乏になってしまった。これからは騙されないぞ、逆に頭を使って騙してやると決意するのであった。
ここで注意する点は、ディエーハは馬鹿ではないということである。人を信頼する性質を利用されただけで、頭が悪い訳ではないのだ。こういうキャラクターは珍しいと思う。そしてここからがこの物語のメインである。
二人の泥棒が市で牛を売ると、それを見ていた三人めの泥棒が二人の悪事を届け出ると脅して分け前を要求する。こうして泥棒は三人組となる。
ディエーハはロバに乗って町に出かけ、市で泥棒を見つけるがあえて無視する。それからロバの尻尾の下に金貨を一枚入れておく。そしてロバに乗って泥棒の側を通り、その時にロバをつねったのでロバは驚いて金貨を落とす。ディエーハは、ロバに「金貨を落とすのは家にいる時にしなさい」と言い、落ちた金貨を拾った泥棒には、「金貨は家にたっぷりあるから、それはそのまま取っておいてかまわない」と言うのであった。
泥棒たちは、すっかり騙されてそのロバが糞の代りに金貨を落とすものだと思い込んでしまう。泥棒たちはディエーハにそのロバを売ってくれと頼む。ディエーハはロバは売り物じゃないけど、いつか盗まれるのではないかと心配なので、少しは売る気持ちもあるというようなことを言う。そして金貨500枚で泥棒たちにロバを売りつけた。さらに「このロバは上等の食べ物を与えて絨毯の上で寝せないと金貨を出さない」と伝える。
三人の泥棒たちは、ロバを交代で家に置くことにする。一人めがロバを連れて帰り、上等の食事を与えて絨毯の上でやすませたが、金貨などは出てこないどころか美しい絨毯を糞で汚してしまった。しかし、一人めの泥棒は何も言わずにロバを二人めの泥棒に渡した。こうして三人の泥棒は三人ともおなじ目に会って、三日後にディエーハの家にロバの代金を返せと押しかけた。
ディエーハは今日あたり泥棒が来るだろうと待ちかまえていて、地面を掘るとクスクスが出てくるクスクスの鍬のネタを仕込んでいた。泥棒たちはクスクスの鍬にすっかり驚いて、ロバのことも忘れて、クスクスの鍬を金貨500枚で買う。
そしてまた一人ずつ鍬を使うが、失敗を仲間に黙っているので三人とも騙される。また三日後に泥棒がディエーハの家にやってくると今度は生き返りのナイフを売りつける。
これはかなりひどい。生き返りのナイフは人を殺しても生き返らせることが出来るナイフ(という詐欺商品)で、夫に文句を言う妻を殺してから生き返らせ、次は本当に殺すぞというように脅して言うことを聞かせるというものなのだ。
そして一人めの泥棒が女房を殺してしまうが、死んだ女房を埋めて何も言わずに二人めの泥棒にナイフを渡す。これもひどい。結局、三人とも女房を殺してしまう。
泥棒たちはようやくディエーハが賢いことに気付き、このままでディエーハに殺されてしまう、先にディエーハを殺そうということになる。
ディエーハは、今度は泥棒が殺しに来るだろうと予測していた。ディエーハは自分の墓を掘り、食料を持ってその中に入って、女房にディエーハは死んだと芝居をさせる。
泥棒たちは死んだとしても文句を言ってやると墓に近づく。ディエーハは墓の中からやっとこで泥棒をつねるので、泥棒たちはびっくりしてしまった。それからディエーハは女房に墓から出してもらい、泥棒たちのところに行って、「俺の方が強くて賢い、お前たちはどうやっても俺には敵わない」と宣言する。
泥棒たちはディエーハに敵わないことを認めて、ディエーハの手下になる。
これで泥棒に対する復讐は終って、めでたしめでたしのはず(泥棒たちの女房は死んでしまったが)。だが、まだ話は続くのである。
ある日、ディエーハは三人の泥棒と共にアゲッリド(王、首長、村のお偉方)の宝蔵から宝物を盗み出す。はしごを掛けて屋根に上り、屋根を葺いている葦をずらして穴を開け、そこからロープで降りてポケット一杯に黄金を入れて抜け出し、はしごを持ち帰った。
ディエーハはもう一度行くときっと捕まるから、もう行かないように泥棒たちに言う。
一方、泥棒に入られたアゲッリドは賢者に相談する。すると賢者は、泥棒に入られたことに気付かない振りをして、屋根の穴もそのままにしておけばきっともう一度泥棒がやってくるから、捕まえられると助言する。
ここからが、賢者とディエーハの知恵比べという形になっていく。
泥棒たちは、盗みがバレていないと思い、ディエーハに内緒でもう一度宝蔵に盗みに入る。そして一人めが床のとりもちにくっついてどうしても足が動かなくなってしまう。残った二人の泥棒がロープで引っ張るがどうしてもとりもちから外れない。首にロープを巻いて引っ張ったら死んでしまった。
二人は死体の身元が分かれば仲間の泥棒たちも捕まってしまうと、ディエーハに相談に行く。ディエーハは宝蔵に行き、ロープで途中まで降りて、死体の首を切って持ち帰る。
翌朝アゲッリドは死体を見つけるが、身元が分からない。賢者に相談すると、賢者は相手は賢いから捕まえるのは諦めた方がいいと言うが、アゲッリドが強く言うと、死体を町の中にさらして、その死体に悔やみを言うものがいれば身内だから捕まえるとよいと助言する。
死んだ泥棒の母親が息子の死体に悔やみを言いたいというので、ディエーハはたくさんの壺をその母親に背負わせて、死体の前で壺を落として割って、そこで悲しむといいと伝える。
その後も、あまり乗り気でない賢者との知恵比べが続き、最後には、賢者の推薦もあって、ディエーハはアゲッリドの名代となり、のちにアゲッリドになったのである。