むかし、現代日本からこの世界に転移してきたおたくの男がいた。その頃、古い都から新しい都に遷都してそんなに時が流れていなかったので、新しい都でもまだ家が建ち始めたばかりであった。それなので都の西の方はまだ人家も多くなくて、少し寂しい感じの所であった。
その都の西のあたりに、世の中の人より優れている女が住んでいた。優れていると言っても姿形が優れているというよりも、心が優れているのである。そのことが分かって女の元に通っている男がいたので、独り身という訳ではなかった。
なお、これはポリコレ改変ではなくて、元ネタどおりなのである。
その女の元に、例のおたく男が訪ねて行った。この女の心が優れているというのは、実はストーリーテイリングに優れているのであった。女はあの千夜一夜物語(アラビアンナイト)の語り手シェヘラザードのように魅力的な物語を次々と語るのであった。
千夜一夜物語は教養として読みたいものである。
手塚治虫渾身のアニメもエロくてよいですよ。
おたく男はこの世界に来てから新作エンタメに飢えていたので、すっかり夢中になって女の話を聞いたのであった。帰ってからもしばらく話を思い返していたが、ようやく我に返って和歌を作った。
起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめ暮らしつ
起きて目が覚めているようでも、寝て夢を見ているようでもなく、夢のような楽しいあなたの物語を聞いているうちに夜が明けてしまいました。(あなたは知らないでしょうが)まるで春シーズンの新作アニメをわくわくしながら眺めているようでしたよ。こうして雨の一日をあなたの語った物語を思い返しながら過ごすのもまた素晴らしいことです。