ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:天界の眼

副題は「切れ者キューゲルの冒険」

オムニバス長編というのだろうか、一応それなりに完結している短編が話としては続いている形式の長編。ネタバレありの感想です。

切れ者キューゲルは「Cugel the Clever」cleverは小賢しいという意味を含むという辞書の説明がよく分かる作品である。

切れ者キューゲルの呼び名は伊達じゃない」と本人が言っているので自称である。まあなんというか、見事な小悪党である。基本的に目の前の料理とお宝と美女を求めて行動する。

割とご都合主義だが、ご都合主義的によい目に合うのは最初だけであり、その後はひどい目にあったりもする。なお、これは復讐譚でもあり、キューゲルが魔術師の館に泥棒に入り、仕掛けられていた罠に捕らえられて、魔術師の使い走りをやらされる。なので、使い走りが終わったら復讐してやるという話である。それって逆恨みではないか。逆恨み復讐譚とも言える。まあ、だいたいみんな悪党なので。

表紙裏の概要でキューゲルは無責任男とも紹介されている。無責任男というと、私にとっては植木等だが、植木等の場合は無責任なことをしても結果OKであり、結果OKである以上は責任を取らなくても問題ないのである。ところが、キューゲルの場合は違う。キューゲルの行動の結果、良くないことが起こっても、キューゲルは責任を取らない。これこそ本物の無責任である。

なんとなくヒロインっぽい女性ダーウェ・コレムなんて、野蛮人に連れ去られてそれっきりである。それっきりである。奪回になんて行かないのである。無責任の極みというべきであろう。

訳者によると、この作品はピカレスク・ロマンであり、ピカレスク・ロマンとは騎士道物語の裏返しなのだそうである。だとすれば、ダーウェ・コレムに関する部分などはまさに騎士道物語の裏返しであろう。(たぶん)セックスしてるし、その後に見捨てるという点でも。

もちろんジャック・ヴァンスなので、風変わりな世界と風変わりな種族が登場する。一応、遥か未来の地球という設定ではあるが、なにしろ何十億年先という未来なので、どうしてこういう世界になったのかという説明なんかはない。青い濃縮液を放出する筒というのが出てくるが、その濃縮液を浴びると苦しむらしい。毒なのか酸の類なのか不明。なんとなく、でろーんと液がでるような光景を想像しながら読んでいた。このごろのアニメで見るようなファンタジー世界とはまるで違う。

そしてこの話は、魔術師の使い走りをやらされての帰り道の話である。1話で比較的あっさりと使い走りの目的の品を手に入れてしまい、あとは魔術師の元にもどるだけ。その道のりが険しくて、だいたい逃げるようにして次の土地に移動する。

抱腹絶倒というよりも、ニマニマしながら読む話という印象であった。