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読書感想:偵察艇不時着!

図書館で借りたジャック・ヴァンスの「冒険の惑星」シリーズの1巻め。1968年発行。

最近の本と違って、字が詰まっていてなんか読みにくいなあと思っていたが、半分くらい読むと慣れたのと背景とかが分かって来て俄然面白くなった

まあ、スペースオペラである。俺の分類ではスペースオペラにも大きく分けて2種類あって、宇宙船とかで飛び回り宇宙船同士の戦闘とかがあるものと、宇宙船は登場するけど、話の主体は惑星上での冒険譚となっているもの。この作品は後者であり、俺はスペオペの中でもこっち系統はあまり読んでいなかったのである。

古いSFなのでネタバレで行きます。

 

 

何かの(無線)信号をキャッチして発信源に調査に来た宇宙船。発信源と思われる惑星に向けて母船から偵察艇を出す。しかし、その直後に惑星から攻撃されて母船は破壊され偵察艇は直撃を免れるものの惑星(チャイ)に不時着(墜落)を強いられる。

偵察艇の乗員2人は墜落前に偵察艇からパラシュートを付けて脱出。パラシュートが木に引っかかっているところを1人は原住民に殺され、主人公のアダム・リースは助けられる。というか、原住民ではなく人間である。つまり、地球人の子孫であった。

彼らは異星人によって古代の地球から連れ去られて異星人の奴隷にされていたのである。なので人間そっくりの原住民というありがちな話にもSF的な設定が付いている。異星人の奴隷のままの人間もいれば、脱走した人間が独自に集団を作っていることもある。さらに、異星人も複数種いて、どの種もこの惑星の出身ではなくて他所の星から来たらしい。

アダム・リースは偵察員としての訓練を受けているので、言語習得や格闘技なんかの能力もある。で、助けられた時にはまだ言葉が通じないので、携帯用の救命パックをパラシュートと一緒に置いて来てしまった。また、墜落した偵察艇は異星人の一派が飛行艇で持ち去ってしまった。アダム・リースの目的はまず携帯救命パックを回収することであり、次に偵察艇を取り戻すことである。目的がはっきりしているのはいい。

携帯救命パックには光線銃とかも入っているで、当面は丸腰なのもいい。光線銃撃ちまくりという話ではない。

ジャック・ヴァンスと言えば異種族の描写だが、やはりこの作品でも様々な種族が登場して面白い。最初にリースを助けたのは紋章人。身につけている紋章によって地位や行動規範が決まり、決闘によって相手の紋章を奪えば、その地位に就ける。いろいろあってリースは紋章人のひとりと決闘して紋章を奪うが、正体不明の混血とみなされているリースには紋章を身につける資格はない神官に判断されてしまう。更にその後、紋章人が荷馬車の商隊を襲撃しようとして失敗し、紋章人の首領のトラスが失敗の責任をとって死ぬことになる。リースはトラスの紋章を剥ぎ取ってトラスと共に紋章人たちから脱走する。

このあとなんとか救命パックを回収するのだが、光線銃に相当するものはエネルギーパックで基本的には他の機器のエネルギー源になるが、それ自体から直接エネルギーを射出することも可能であり、それが光線銃的な使用法になる。エネルギーを消費するのであまり使えない(ということになっているが、具体的な使用回数の制限があるわけではない)。

そして、スペオペと言えば美女。この作品にも美女が登場する。なぜか表紙には出ていないが、典型的なスペオペ美女である。この美女は檻に入れらていて、何かの儀式の生贄にされるらしい。ここで面白いのは、美女を生贄にしようとしているのが、狂信的な尼僧の集団であるということ。尼僧たちは男を憎むあまりに男にとって魅力的な女性も憎んでいる。あとで生贄の儀式の時に分かるのだが、尼僧たちは頭を剃っているだけでなく、乳房も切り落としている。

ストーリーの流れとしてリースは美女を助けて、相思相愛的な関係になる。この救出もリース自身が生贄になりそうになったり、生贄の男たちを解放してその男たちが尼僧に反乱している間に美女と一緒に逃げ出すような展開。よくあるパターンと言えば、よくあるパターンだが、ひとりで無双している訳ではない。

それから偵察艇の奪回に向かうが、今度は異星人が相手なので、そう簡単に行くわけもなく、偵察艇の置かれている場所を下見に行っただけで、見つかって逃げ出すことになる。

無理なのでもう諦めるのかと思ったら、その前にあった人間集団の独裁者を打ち倒した事件の結果としてリースが人間集団の代表に選ばれる。独裁者を倒した後に、自分たちで代表を決めろと言っておいたのに、連中はリースを選んでしまったのだ。流れで代表を引き受けて、自警団を作ったりしていたら、異星人たちがやって来た。異星人たちは下見に行って見つかった件でリースを出せと迫るのであった。

人間の武器は異星人には通用しない。リースのエネルギーパックからの射撃で異星人を倒すが、この後本格的に異星人が攻めてくることは明白であり、リースたちは戦闘の準備をする。そこでまたこの惑星には複数の異星人がいるということが生きて来て、異星人同士の争いに持ち込んでなんとか勝利する。正確には違う異星人間の争いではなく、同じ種族の異星人の分派の間の争いだが。

そして偵察艇の保管されている所に行くと、偵察艇は分解されていてもはや使用不可能なのであった。

リースは偵察艇で地球に戻るという目標を諦めて、美女をその故郷に帰すことを目標にする。1巻終わり。

このあらすじで面白さが伝わったかどうか分からないが、俺には面白かったのだ。扉の紹介文では「鬼才ジャック・ヴァンスが放つ異郷世界シリーズ」と書かれている。そうこれも(SF)異世界ものなのだ。

日本語に翻訳されるスペオペスペオペの中でも上澄みであり、さらにジャック・ヴァンスとなると上澄み中の上澄みなので、面白いのも当然である。ただ、今の時代の流行と合わないだけだ。

表紙は美女が描かれていないだけでなく、アダム・リースがなんか大きい武器を持っているんだけど、俺の印象ではエネルギーパックはもっと小さいと思う。

異星人の奴隷になっている人間は、それぞれに奴隷であることを正当化するような神話を信じているというのも面白い。鎖で繋がれた奴隷ではなく、精神的宗教的に異星人に従属することが当然とされているのだ。

 

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ふと見たら、たまたまお題と一致している内容だと気づいたので、お題を貼っておく。まあ、これがジャック・ヴァンスの最高傑作という訳ではないけれど。

今週のお題「名作」