ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

創作:異世物語 42. ありしにまさる今日はかなしも

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昔、若者が(身分を除けば)見た目や立ち居振る舞いなどがつり合わないこともない女を愛しく思うようになった。男親なのか女親なのか分からないが、若者の親が心配性というか過保護というかあれこれと若者の将来などを勝手に心配して、身分の低い女との恋愛関係が深まっては困ると、この女をよそに追いやろうと考えた。

考えたけれど、すぐには追い出さずにいた。

若者は過保護に育てられたせいか、心に勢いがなくて、親の意見に反対することは出来なかった。女も身分が低いので若者の親の意見に抵抗する力がない。

そうこうしているうちにも、あるいは、別れが迫っているためにむしろ、二人の想いは一層強くなっていった。

これはまずいと、親は急にこの女を追い出した。若者は血の涙を流したけれど、親に逆らって別れを止めることは出来なかった。親は女を連れて出て行って、どこかにやってしまった。

若者は泣く泣く歌を詠んだ。

出でていなば誰か別れの難からむありしにまさる今日はかなしも

女が私を嫌いになって自分から出て行ったなら、別れがつらいということはないだろう。そうではなくて無理やり引き裂かれたので、以前よりも今日は悲しいのです。

そう歌を詠んで息絶えて死んでしまった。

親は慌てた。息子のためを思ってしたことなのに、まさかこんなことになるなんて思わなかったのだ。本当に息子が息絶えて死んでしまったので、うろたえて神仏に願を掛けた。

若者はその日の日暮れ頃に息絶えて、丸一日過ぎた翌日の日暮れを過ぎてすっかり暗くなった頃に息を吹き返した。

昔の若者はこんなに激しい恋愛をしたものである。今のご老人はそんな恋愛を出来ますか?

「いきなり俺に振るのかよ」ともう中年になっていたおたく男は思った。メタな文章だな。ともかく、親も親だが息子も息子で情けなく、とても同情できないと現代感覚をまだ持っているおたく男は思った。俺なら女を背負って二人で逃げるのにとおたく男は思うのであった。あれはリセットした記憶だけれど。

それよりもむしろ、追い出された女の方に同情するのである。メイド萌はおたくの嗜みだからである。