読書感想:レインボーズ・エンド
ヴァーナー・ヴィンジのサイバーパンクというか。
面白いことは間違いなく面白いんだけど、個人的な不満もある。基本的にサイバーパンクは反倫理的な主人公が活躍する話だと思っている。私のこの認識自体が古いということなのだろう。初期のサイバーパンクは、技術の発達によって古い倫理観が意味をなさなくなり、ハッカー的な新しい倫理観が成り立つというような話だったと私は認識していていて、それが更新されていないのだ。
この作品は実は家族関係の再生の話で、基本的にはとてつもなく古いタイプの話である。ハッカー的にな存在は主人公ではなく、外部の謎の存在であり、人間ではなくてAIであるという解釈も可能だが、その辺も個人的には気に入らないというか。小説に登場するAIはとても人間的でつまらない。能力は人間を超えているにしても、行動原理が人間的過ぎるのだ。これではまるで人格神ではないか。現実のAIが人間的なレベルに到達していないために、虚構のAIは人間的にならざるを得ないのかも知れないが、異質な存在をみたいと思うオレのSFマインドに応えてくれないのである。
個人的には、主人公に反倫理的な行動をしてほしい。単に利己的な行動でなければなおよい。しかし、SFといえども娯楽小説であり、反倫理的な行動やアンハッピーエンドは、アメリカでも(アメリカだからこそ)難しいのかも知れない。
実はこの作品、始まってすぐに敵役の陰謀がはっきりしてしまうのである。そこを読んだときには、えーっと思ったけれど、その陰謀を実現するための手段が遠回りすぎて、それが書いてなければ何を目指して話が動いているのか全然分からないので、書いてあってよかったというか、書いてあっても何がなんだか分からないというか。まあ、その辺りはサイバーパンクらしさがある。
もっとも主人公が若返った年寄りというのは、それなりに高齢と思われる作者の願望充足的な面がみられて微笑ましい気もする。ぽっちゃり体型の孫娘とのコンビも。