ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:紙の動物園

ケン・リュウのSF短編集。問題提起型とも政治的とも言える。その意味ではル=グィンティプトリーの作品にも似ている。しかし、ル=グィンティプトリーと違うのは、ケン・リュウが東洋系の男性という点であり、さらにプログラマーというところまで読者である私と重なるという点である。

作者と同じような立場の読者として読んでみると、政治的作品はどうも好ましくないような気がする。まあ、同じような立場といっても、ケン・リュウは中国系で中国の話が多いので、そこは同じというよりも異なるわけだ。ル=グィンティプトリーを読んでいた頃からすると私も年を取ったし、世界も変わったというのも理由の一つだろう。

政治的であるということは現実的であるということで、SFでありながらも現実を少しも離れていない。むしろ、現実を見せるためのSFであるとも言える。そしてまたケン・リュウがプロであるとつまり職業作家であると感じられるのも、もうひとつノレない理由である。プロなので東洋系という自身の出自を最大限に利用している。この短編集に収録されている作品では、主人公が東洋系の男性でない場合は、おおむね主人公は女性である。それが作者がプロだと私が感じる理由でもある。

もちろんプロらしさは、うまさにも繋がっている。一つ一つの作品はできの良いうまい作品である。短編集にすることで政治臭が強くなったとも言えよう。まあ、訳者のあとがきで政治臭がかなり増したような気もするが。