「いやあ、実に久々にSF小説を読んだぜ」という気がした短編集。1940年とか比較的古い海外SF短編。伊藤典夫が翻訳したものの中から更に高橋良平が選んで編集したもの。
ボロゴーヴはミムジィ
1943年ルイス・パジェット作。表題作。タイムマシン?いや教育システムと思わせて落ちはアリスか。先日書いた記事は実はこの短編を読んだ結果なのであった。教育システムの革新によってすごい子供が育つという話。
子供の部屋
1947年レイモンド・F・ジョーンズ作。掲載順として、内容が1作目と似すぎているという気がしたが、ミュータントテーマ。ミュータントテーマの基本構造である、優れた少数派がモンスターとして迫害されるというパターンではない。ミュータントの子供向けの特殊教育。選ばれたものと選ばれなかったもの。選ばれたと言えなくもないけど、拒否したもの。タイムマシンも関係しているような。でも、これって時間を超えた徴兵でもあるのではないだろうか。
虚影の街
1955年フレデリック・ポール作。シミュレーション世界もの。これは読んだことがある、と思いながらも内容は思い出せないままに読み進めたが、オチまで来て、やはり読んだことがあったと分かった。オチは意外だが、この内容とは合っていない気がした。コマーシャルしつこい問題は、現在も続いている。
ハッピー・エンド
1948年ヘンリー・カットナー作。ハッピーエンドから始まる話。ハッピーエンドから始まったら、どう終わるか。訳の分からない状況に追い込まれた主人公が悪戦苦闘するという、ある意味ありふれた話を、ハッピー・エンドから始めるという巧妙さ。
若くならない男
1947年フリッツ・ライバー作。時間が逆転した世界で、一人だけ若くならない男。ディックの「逆まわりの世界」の元ネタか。墓から人間が出てくるとか、かなり近いところがあると思う。ディックが個人に注目するのに対して、人類文明を俯瞰した作品。タイトルは「テレポートされざる者」みたいでもある。
旅人の憩い
1965年デイヴィッド・I・マッスン作。時間の流れる速さが緯度によって異なる世界で、果てしない(一瞬の)戦争が続いている。なんというか、一瞬の緊張が続く戦場と平和な日常を時間の流れの違いというSF的なアイデアによってうまく繋いだ作品だと思う。でもオチはこれでいいのか。
思考の谺
1959年ジョン・ブラナー作。途中でカタカナ文(ひらがなとカタカナを逆にした文)になったら、俺にはもう読めなかった。本を読む力が落ちている。たぶん、原書はイタリックか。今の時代に本にするなら、フォントを変えて欲しかった(教科書体とか、丸ゴチとか)、でも伊藤典夫の訳文を変える訳には行かなかったのだろう。まあ、カタカナ文のところを読み飛ばしても話は分かる。
脳内に他人の(異世界の)思考が入り込んでくるという話と、侵略ものの話のマッチング。そしてメインストーリーは美少女を若者が助ける話。その美少女が最初はアル中の浮浪者みたいなところがいい。ハインラインの「人形使い」みたいでもある。