だいたい俺はへそ曲がりなところがあって、世間で評判のものには反感を持ったりする傾向がある。
ベストセラーとか聞くと却って読みたくないと思うタイプなのである。ところでこの世のベストセラーとなるのは文芸書よりもビジネス書のようだ。つまり、人類はビジネス書が好きらしい。そしてそれはネットでは役に立つまとめサイトという形をしていたりする。もっともらしい経験談から誰にでも役に立つ一般法則が導き出される。
そういうビジネス書やまとめサイトにあるような名言がフリーレンには溢れている。もしまだ企画されていなかったなら、今から企画すれば売れるはず。「フリーレンから学ぶビジネスの極意」とか「フリーレンにみる人との接し方」とかそういう手の本。
いやいや、漫画やアニメの名言って俺にとってはそういうものではない。「だが、断る」とか「この世に自分ほど信じられんものがほかにあるか」とかいうものであって、人生やビジネスの役に立つものであってはならないのだ。
フリーレンの世界の魔法は経験知の蓄積なので、長く生きている方が魔法に詳しい。ゾルトラークとか言っても、それは一時の流行ですぐに忘れられてしまうはずだ。すごく便利な洗濯魔法が戦争の時代には忘れられてしまったように。平和な時代には戦闘魔法は忘れられるのだ。短い目で見ればその時に必要な魔法が発達するが、長い目で見れば何度も忘れられたり復活したりするのである。
ひとつひとつの言葉は経験に基づいてもっともらしくても、知識の体系がない。俺はビジネス書というのはそういうものだと思っている。