これは実に面白かった。エラリー・クイーンのアンソロジストとしての能力の高さを示していると思う。これから、クイーンの他のアンソロジーを読んでみよう。
ただし、日本語タイトルはちょっと内容と違うと思う。最初の「殺人」の部は完全犯罪と言ってもいいかもしれないが、その後の「泥棒」と「詐欺」の部はちょっと完全犯罪というのは違う気がする。そしてサブタイトルの「悪党見本市」というのもまたちょっと違うと思うのである。というのは「殺人」の部は殺人が成功して捕まらないという話だが、それではあまりに倫理に反するからだろうか、殺される側がひどい人間で、殺人をする側は「ひどい夫から妻を守る」ために殺人をするというような形式をしている。悪党とは言い切れないのである。原題だと「The Great Criminals of Modern Ficton」なので悪党というよりも犯罪者ということのようだ。
殺人者展示場
郵便殺人:これは恨みによる犯行なので悪党と言える。そして失敗しても証拠が残らない点が素晴らしい。
ミスター・ボウリーの日曜の晩:これは善意による殺人。実に恐ろしいが、悪党というのとはちょっと違う。こういうキャラは好きである。
血の犠牲:タイムリーというか、原作者が作品を改変されて怒って改変した劇の興行主兼主役を殺す話。偶然性が強い。犯罪にはならないかも知れない。作品を改変された恨みの描写がよい。
骨董商ミスター・マーカム:ラジオ用のストーリー。戯曲というか。これもよい。確かにラジオ用。
殺人!:偶然性が強い気がする。後で再捜査されたらバレるのではないだろうか。
泥棒展示場
ダイヤのカフスボタン:変装の名人の泥棒と大金持ちのカモのシリーズらしい。つまり同じ相手を何度も騙すというシリーズのようだ。これはシリーズとしても面白そうだ。詐欺のようでもあるが、泥棒行為もしているので泥棒の分類でよいだろう。
ラッフルズ罠にはまる:これは面白い。泥棒ラッフルズが泥棒避けの罠にはまったピンチの状態から話が始まる。そして相棒のバニーがラッフルズを助けに行くが、それはバニーも共犯として捕まる危険があるということ。二人ともピンチ!そこからどうやって逃げ出すか。面白い。このシリーズも読みたい。
不敗のゴダール:これは何だ?ゴダールという泥棒の登場するシリーズを書いている作者アーミストンの話なのか。それがシリーズになっているのか、それともこの作品だけ外伝的なものなのか。メタフィクション的でもあり、十分に現代的な作品だ。このシリーズも読みたい。
七十四番目のダイヤ:調整者(ミクサー)アンソニー・スミスの話。これも面白かった。どうも俺は泥棒の話が好きらしい。まんまと騙された。
聖ジョカスタの壁掛け:女怪盗フィデリティ・ダヴの話。「妖精のようにキュートな女怪盗のフィデリティ」って、今の日本でアニメ化しても通用するキャラだと思う。この作品ではちょっとうそ科学っぽいネタを使っているせいか、最初にそのネタの解説風なエピソードがあって、ネタバレしているけど、フィデリティが堂々と相手の前に姿を表すところとか作劇として面白い。
詐欺師展示場
催眠術:タイトルはあれだけど、O・ヘンリー作なので面白いに決まっている。
強力無比坐骨神経痛剤製薬会社:下手な詐欺よりも株式会社を設立した方が儲かるという話のような、でもやっぱり詐欺か。ちょっと法律的にはどうなのか分からないけど、うまいこと行きそうなのが、大失敗になりかけて、そこから巻き返すという逆転がよい。主役のウォリンフォードの奥さんが詐欺から足を洗えと言っているのもうまいこと騙しているようなそうでないような。たぶん根っからの詐欺師体質。
大佐のお別れパーティ:フラック大佐はほとんど金がないのに高級ホテルに泊まって贅沢に飲み食いして、最後に詐欺で稼いでホテルを去るという計画。ポーカーで負け続けなのは撒き餌なのか実力なのか。そして相棒にもネタを明かさないので相棒が慌てて行動するのがうまく詐欺の相手を騙す上で役に立っているという組み合わせ。
どうやら、俺は探偵よりも泥棒や詐欺師が好きなようだ。大金持ちが酷い目に会うというのもいいし、まんまと詐欺師に騙されるのもいい。それにパズル的だし。