ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:天から降ってきた泥棒

ドートマンダー・シリーズ。これは素晴らしい。

ラプンツェルというか、塔の中に捕らわれた姫君というか、泥棒という点では、ルパン3世の「カリオストロの城」なのである。そしてその塔というのがニューヨークの76階建の摩天楼。

姫君は修道女で、その姫君を塔の中に幽閉しているのは、その父親で大金持ちの男。そう父権主義者である。そもそも娘が修道女になった原因が父親にあることは明白。そして父親は修道院から娘を誘拐して摩天楼に幽閉したのだ。さらに、カルトから脱洗脳をさせる専門家を付けて、娘をカトリックから脱洗脳させようとするのだ。

この設定だけでご飯3杯は食べられる。とは言え、作者の目的はエンタテイメントなので、「この作品に登場する人物、……。どの人物も作者の個人的な意見を代弁していない。……」という前置きは形式的なものではない。

ドートマンダーは天才的犯罪プランナーとなっているが、プランナーとされている理由は、目的とする犯罪のために必要なメンバーを集めて準備を整えるから。つまり、この作品は特技を持ったダメ人間を集めてプロジェクトを成功させるという構成をとっているのである。山田正紀の名作「火神を盗め」みたいなものである。いやあ、ダメ人間たちが不可能と思えるプロジェクトに挑む話っていいよね。まあ、メンバーを集めると言ってもいつものメンバーもいるけど。

登場人物たちが犯罪者なだけあって、実にひどい。これが素晴らしい。自動車泥棒の最中に持ち主に咎められてもものともしない巨漢のタイニー。46年間刑務所に入っていて、女に飢えているので、女と見ればセックスしようと声をかける老人。作品の冒頭でドートマンダーは泥棒に失敗していて、それがこの作品のメインの話のきっかけになっているのだが、その最初の泥棒計画に出資した男が失敗したから出資金を返せと迫ってくるのがひどい。なんと裁判に訴えるというのだ。

不可能を可能にする完璧な計画と、どう考えても実行時にトラブルが発生することを予見させるストーリー。そして案の定、トラブルの中にまっすぐ踏み込んでいくドートマンダー。

危機一髪で回避かと思うと、回避できなかったり、うまく行ったかと思うとうまくいっていなかったり。

ほぼ無関係だったのにノリノリで犯罪に加担するJ.C.テイラーもいいキャラだ。色気担当だし。