今週のお題「読書の秋」
今年読んだ本で面白かったのは、泥棒バーニィシリーズと、ドートマンダーシリーズである。ふたりとも泥棒だが、バーニィはミステリーの構造もしていて、名探偵ぶりを発揮する。一方、ドートマンダーは泥棒計画を立案して実行するが大抵は失敗する。
古い価値観を持った年寄りとしては、最近いろいろ倫理的にうるさいと感じることが多い。せめてフィクションの中では反倫理的なことを楽しみたい。特に過去のフィクションなら文句を言うのも野暮というものだ。泥棒なら反倫理といっても生命倫理や差別とは違って世間も(まだ今のところは)寛容なものだ。どちらもユーモアに溢れている。そういや倫理とユーモアは仲が悪いという気がする。
バーニィは泥棒はするが、殺人事件を解決することによって、倫理的なバランスを取っている。正義感から事件を解決するのではなく、基本的には殺人の疑いをかけられてそれを晴らすためにやむを得ず推理をするという形式もいい。それにバーニィは表の稼業として古本屋をやっているので、蘊蓄語りも面白いし、相棒というか仲良しのキャロリンとの会話がとても楽しい。私の好みとして、ちゃんと泥棒の稼ぎとして毎回利益を得ている点が素晴らしい。
一方のドートマンダーは、冴えない泥棒で一人で仕事をしている時には失敗が多い。しかし計画立案能力が優れていて、仲間を率いて不可能と思えるような強盗計画を立てる時に才能を発揮する。そしてその素晴らしい計画が、無惨にも失敗するという点がこのシリーズの面白さだ。不可能と思える挑戦があり、それに完璧な計画を立てる。そして偶然の働きによって悲惨な失敗をする。また、ドートマンダーの仲間たちが面白い。私のお気に入りは巨漢のタイニーである。このタイニーこそ反倫理的存在であり、あらゆる揉め事を暴力で解決する。あと、マーチのお母さん。タクシー運転手としての話が面白い。全然悪意がなくて、誘拐の交渉相手と意気投合したりするのがおかしい。
探偵の正義にうんざりした時には、こういう泥棒側の小説を読むとスッキリする。
ad2217.hatenablog.comドートマンダーシリーズでは、短編の「悪党どもが多すぎる」がシリーズとしてのパターンには反するが、大変面白い。