ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:入門 世界の民族楽器

図書館で借りた本。怪書。

作者の若林忠宏タモリ倶楽部とかにも出演したことのある民族楽器界隈では有名な人らしい。

3章から構成されていて、第1章が「楽器の種類分けって、どんな?」、第2章が「楽器の歴史」、第3章が「楽器はどのように伝わり拡がっていったのか」となっている。

 

 

このうち第1章はたいへん素晴らしい。特に俺の知らないことが大量に記述されているし、楽器の写真も多く、また著者の体験なども混じえて興味深い話が満載である。ここで終わっていれば大傑作

なのだが、2章と3章は著者の独自の理論なのである。いや、それも悪くはない。というか楽器の歴史を調査する手法は素晴らしい。それは文献に記述された楽器の名前を重視する既存の手法とは異なる。1章で楽器の名前は結構いい加減に呼ばれると言っていたことが意味を持ってくるわけだが、文献に記載されている名前だけでは楽器の実態がわからない。そこで、著者は文献の記述よりも絵画に描かれた楽器の形に注目して歴史上の楽器を特定しようというわけだ。その発想というか手法は新しくてすごくよいものだと思う。

それはよいのだが、これまでの学説というか学者というかに対する批判がしばしば語られる。しかし、この本は一般向けで専門書は後で出版するということで、批判の論拠は十分に示されない。著者の理論もほぼ結論だけで論拠は十分ではない。そして一般向けと言っても語り口が学者のものではないので、一般書であっても学者らしい語り口が好きな俺は常に疑問を持ちながら読むことになる。

たぶん批判そのものはかなり正しいと思う。でも著者の理論も結構危ういところがある。例えば、最近はロマと呼ぶべきだと言われるジプシーを、この著者はジプシーと呼ぶのだが、その論拠が俺には納得できない。著者が出会った一人のジプシーが、「自分はロマと呼ばれようがジプシーと呼ばれようがどっちでもいい」と言って、「ジプシーの音楽」というタイトルのCDを売っていたというのだ。一人の意見だけでいいのか!それに商売としてCDを売るためにより広く知られたジプシーという名称を使っているのではないか。俺はそう思ってしまう。なので、この著者の論理の筋道は信頼できないと思うのだ。

惜しい。この著者自体は学者ではないので、物分かりのよい学者と組んで論文を発表するなり書籍を刊行するなりすればずっとうまくいくと思うのだが。