ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:中国語とはどのような言語か

アジアのお箸さんの書評を見て読んだ本。

jkcv.hatenablog.com

現代中国語の文法絡みの本である。中国語口語文法と言ってもいい。ただし、口語と言っても会話文だけではなく、小説文も対象である。

本書の中でも「小説文」という用語が使われている。これは日本語もそうであって、会話文と口語体の小説の地の文は違うものである(そういう意味では論文の文もまた別のものだ)。

私が特に興味を魅かれたのは「流水文」というもの。次々と関連する事柄が記述され、一つの文の中で主語が変わることもある。それを日本語にそのまま一つの文として翻訳すると規範的な日本語にはならない。ラノベ講座とかで、やってはいけないことに挙げられるのが、まさに一つの文の中で主語が変わるということである。

しかし、実をいうと私はこういう文が結構好きだったりする(規範的でない変わった面白い文章として好きなのだ)。中国語では自然に使われるという点からも、また、ラノベ講座でやってはいけないと指摘されるということは、やっちゃう人が多いということでもあり、それはそういう書き方が自然なものだからだと思う。しかし、著者もいうように現代の日本の小説作法ではそれは規範的ではない

有名なものでは「たけくらべ」の冒頭なんかが、単に一文が長いというだけでなく、描写の視点が流れるように移っていくところなど、この流水文に近いのではないかと思う(俺はたけくらべの冒頭しか読んだことがないのだが)。

第十章「流動する叙述と修辞構造」では、文法と修辞ということについて書かれている。文法的には二つの書き方のどちらも可能であるとしても、実際にはより多く使われる書き方がある。それは修辞的に好ましい、美しいということであり、生成文法的な考えだけではこのより多く使われる文構造の理解は出来ないのではないかと言っている。私も大いに賛同する次第である。

そして現代中国の小説では流水文は美しい規範的な文であり、一方日本語では悪文の例とされる。それは文法が定めることではなくて、習慣というか社会的な制約、あるいは学校でそう教えるからなどいったことによって決まってくるのではないか。