ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:鞍馬天狗

鞍馬天狗の小説ではなく、鞍馬天狗が何人、どんな風に人を斬ったかという本。ブログネタのようだと思って図書館で借りた。ゴルゴ13が何人殺したかみたいな。

そういうことが可能なのは、鞍馬天狗の作者大佛次郎が、その場面に何人いて、そのうち何人を鞍馬天狗が斬ったかということを詳細に書いているからである(ただし、一部不明なところがあって、この本の作者の川西政明の推測もあるが、それは例外的)。

長短編合わせて47作の鞍馬天狗作品の中で、鞍馬天狗が斬ったのは181人ということだ。ただし、これは斬った人数で、殺した人数ではない。片腕を切り落としたが、殺してはいないとか、峰打ちで斬ったのも含んでいる。そして、これ以外に短銃で撃って殺した相手もいる。

それだけでなく、実はその鞍馬天狗の斬り合いの説明のために作品の概要も書いてある。つまり、この本には鞍馬天狗全作品の概要が書かれているのである。この本を読んだだけで、鞍馬天狗を読んだかのような気分になれるかも知れない。実際、私は鞍馬天狗の小説を読んでいない。だけでなく、鞍馬天狗の映画も見てない(と思う)。テレビドラマを部分的に見たのかも。でも、杉作少年が「天狗のおじさん」とか呼びかけるシーンはなんとなく見覚えがあるが、それは原作ではなくパロディか何かの可能性も高い。

しかし、単にそれだけの本ではない。斬った人数を数えることによって、鞍馬天狗だんだん人を殺さなくなることが分かるのである。それにより鞍馬天狗の、そして作者大佛次郎の考えの変化が分かるという仕組みになっている。ただし、その思想の変化は一直線ではない。大正から昭和になり、戦争が始まり、そして終わり、戦後まで、鞍馬天狗は書かれ続けるからである。大正13年から昭和40年までの時代の変化も作品には影響を与えている。

という話が前半で、後半は大佛次郎の晩年のノンフィクション作品「天皇の世紀」と「鞍馬天狗」を比較している。「天皇の世紀」も「鞍馬天狗」と同じ幕末の時代を描いているので、大佛次郎歴史観の変化が伺えるという訳だ。

こちらは私には面白くなかった。というか、(多くの歴史学者がそう認識しているような)歴史的事実と、大佛次郎の認識している歴史と、この本の作者の川西政明の認識がどうもはっきりしなかったからである。川西政明の個人の考えというものは書かれていなくて、基本的には大佛次郎歴史認識が書かれているのだとは思うけれど。