ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:不屈

競馬シリーズということだが、競馬はあまり関係ない。

若い画家のアリグサンダーが主人公。画家としての才能があって見る者の心を打つ優れた作品が描けるだけでなく、商業用の作品も描けてそれが大ヒットというほどではないにしても十分に売れている。その一方で、電気のない山小屋で絵を描くことを好む孤独を愛する人間であり、着る物は絵の具で汚れていて、髪は肩の上でカールしている。また、貴族の血を引いていて伯父は伯爵である。物を隠す才能があって、伯父に依頼されてある物を隠している。また母親の再婚相手がビール醸造会社の持ち主で金持ちである。

その義父の会社で横領事件があり、義父は心臓発作を起こして療養することに。会社は倒産しそうで、義父から対策を依頼される。

俺の厳しい好みからいうと、主役が高貴すぎるが、小説としては面白い。主役は暴力には勝てないが、暴力に屈することもなく、頭が良くて芸術の才能があり、そして何よりも貴族的な高貴な精神の持ち主のように思える。ジョジョで言うとジョースター家の誇り高い気質みたいなもの。それも初代のジョジョのような感じだ。

あと、金持ち(準男爵でもあるが)の義父と伯爵の伯父がアリグサンダーに絶大な信頼を寄せている好人物なのも、俺の好みではないが、安心して読める点とも言える。つまりは、主人公側の人間はほぼ全員善人として描かれているし、家父長的な匂いもするところが好みではないのだが、不必要なまでに人間の汚さを描くよりも好感が持てる気もする。

悪人側は悪人だし、主役の手伝いをする探偵もなかなか癖があり、女性陣も有能なので、全体としては難癖のつけようがない。

それに競馬シリーズでよいのは、主役が毎回変わるという点である(同一主人公の作品もあるが)。

というわけで、俺としてはひっかかる点もあるが、良い作品であると思う。個人的に大好きな作品という訳ではないが、他人に勧めやすい傑作であろう。もっともパズルミステリーではないし、ハードボイルドでもない。不屈の魂を描いたやや文学よりのエンタメというところだろうか。