ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

アニメ感想:スーラジ ザ・ライジングスター

とうとう最後まで見ました。俺、すごい。これは、まれに見る駄作である。その点についてはたぶん多くの人の意見が一致すると思う。

toyokeizai.net東洋経済の記事なので「人気」とか書いてあるけどな。

さて、スーラジのポイントを整理してみよう。

インド版巨人の星

登場人物がインド人。ただし、なんとなく元の巨人の星のキャラを思わせる設定になっている。星飛雄馬スーラジ花形満ヴィクラム、伴宙太→パップーなど。ただし、イチローは原作の速水譲次に該当するっぽい。星一徹に相当するキャラはシャームだが、物分りのいい子供思いの親父になっている。DVや虐待描写を避けるためだというが、その結果として星飛雄馬父親に反抗するようなところがただの自分勝手な行動に見えるようになってしまった。

原作という表記は間違いで、せいぜい原案とするべきだろう。

野球ではなくクリケット

クリケットという競技は、インドだけでなく世界中(元大英帝国領か)で人気があるスポーツである。さて、巨人の星との関係でいうと、クリケットの投手(ボウラー)は6球投げたら交代しなければならない。次の投手が6球投げたらまた元の投手が投げてもよい(Wikipediaには6球だけのように書いてあったが)。つまり、最大でも試合の半分の球数しか投げられない。どうも投手の重要性は野球よりもはるかに低いようである。そもそも打者(バッツマン)は投手の球がウィケットに当たらないようにするのが第一の役目なので、ボールをカットして走らなくてもいい。そしてバットの球の当たるところが平面の板なので、ボールにバットを当てやすい。ワンバウンドしてもよい。というか、ワンバウンドするのが普通らしい。これは投手の目的が打者に打たれずにウィケットを倒すことにあるので、それにはワンバンが適している。そしてまた助走をつけて投げてもよい。このアニメでも、投球は助走をつけて投げ、ワンバンしている。

投手の話、そして魔球の話である巨人の星クリケットの話に変更するためにはかなりの工夫が必要である。

イチローという日本人武道家

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クールジャパンらしさがある。しかし、もとのキャラの速水譲次は、たぶん昔のファンは覚えていないのではないか。なにしろ、私の印象では悪役だから、そして嫌味ばかり言うが大して活躍しないキャラである。星飛雄馬が巨人軍の入団試験を受けた時に、「靴紐が解けている」と嘘をついて飛雄馬を動揺させ、結果的に魔送球を投げることになったキャラである。

それが日本人のイチロー、しかも武道家。これはもう予算獲得キャラでしょう。映画にアイドルを出演させるのは、観客獲得のためだが、このアニメにイチローを登場させても(インドの)視聴者を獲得できるとは思えないので、お偉方に金を出させるためのキャラと断言できる。

ところで、クリケットでは常に走者がいる。ホームと2塁しかなくて2塁は投手のそばで、どちらにもバッツマンがいて二人がいっぺんに走ることによって得点する。これはつまり、一人だけ抜きん出て足の早い人がいても役に立たないということである(守備には役立つ、とはいえフィールド全体を守るのは無理だろう)。速水の活躍は難しい。実はバッティングのうまい人は大活躍できるのがクリケットだが、このイチローというキャラは速水の立ち位置なので、バッティングの天才ではない(バッティングの天才だと主役になってしまう。それにライバルの花形や左門も食ってしまう)。

魔球アグニボール

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巨人の星といえば、大リーグボールである。この作品は、最後に魔球アグニボールを完成させるところで終わる。さて、この魔球アグニボールはどういうボールなのか。それは不明である。アニメの表現上は火の玉ボールである。投げたボールが火の玉になる。でも、このアニメの最初の方でも、スーラジの投げたボールが火の玉になるという演出があったと思うんだよね。どうも演出ではなくて本当に火の玉になるようである。というのは、このボールを最初に投げた時、それはスーラジが山の中で修行をしている時なのだが、虎に襲われそうになって投げたボールが火の玉になり、虎の周りで火事が発生しているのだ。周りに延焼する本物の火の玉なのである。

しかし、アグニボールで勝利したあとのインタビューでは、「打者を観察して行動を読む」と言っている。大リーグボール1号のような説明である。実際の試合ではどうか。いくつかのパターンがある。火の玉になった(そして時には螺旋を描いて打者に向かう)アグニボールに打者が恐れをなして、見逃しまたは空振り、ウィケットが倒れてアウトというパターン。火の玉になっているが、打者がなんとかカットしているパターン。火の玉になったボールを打者が打ち上げて、フライを捕球してアウトというパターン(1号パターン)。火の玉になることしか分からん。フライになるにしても、火の玉のままだったらフライが取りにくいのではないか。クリケットの守備は素手でボールを捕るのである。アニメでは打った後は火が消えてるけど、でも熱いんじゃないの。

(作画に)問題あり

日本のアニメファンが見て最初に気づくのは、作画に問題ありということである。それは1話を見ただけで分かる。いやオープニングだけでも分かる。しかし、作画は途中で崩壊したのではなく、最初からほぼ安定した(低)水準である。この作画水準は製作検討段階で分かっていたことだろう。

そもそも商業作品が世に出るためには、企画が通らなければならない。インド版「巨人の星」でクールジャパン戦略実現-講談社担当者がバンクーバーで講演。

そしてビジネスであるから収益を上げる必要がある。これは番組内広告という方法が取られた。広告を出す企業さえあれば確実にその分の収益がある。インド内に展開する日本企業が広告を出している。もちろんクールジャパン機構も大きいだろう。特にイチローはクールジャパンからの金を引き出す上で必須のキャラではないだろうか。

ビジネス的には、収益を上げればそれでいいわけで、作品の内容は収益を上げるためによくする必要があるに過ぎない。巨人の星を懐かしむ高齢者層(俺も含むぞ)が役員をやっているような企業から番組内広告を取れて、それで収益が上がるなら、ビジネスとしてはそれでいいんじゃないか。

それは(エグゼクティブ)(チーフ)プロデューサー の立場からすればそうだろうが、視聴者としては許せないわけだ。やはり作品として面白くないとならない。

作画に問題があるなら、実写にすればいいじゃないの

インド映画の評判は私の周りではかなり高い。そりゃあもう、アニメばかり見ている私が眼にする範囲で評判がいいのだから、かなりの実力があると見ていいだろう。バーフバリとか傑作だった(金はかかってると思うけど)。映画ほど金を掛けなくても、実写(特撮や3DCGあり)の方がインドに向いているのではないか。

実際には、作画以前に問題があるのである。つまり、野球漫画・アニメである巨人の星クリケットの話にする際に、どうしたらクリケットとして面白い話に出来るかという検討がされていない。これはつまりインドの視聴者を喜ばせようという意図がないということである。クリケットの試合の盛り上がる場面は何か、クリケットのスター選手はどの点に人気があるのか、そういうことを調査しなければならなかったはずである。クリケットでは投手よりも打者がスターになるなら、花形満を主役にしても良かったはずだ。花形満が主役のスピンオフ漫画があるのだから。

作画以前にやるべきことをやっていないし、実写にする手もあったが実写にしなかったのが問題である。

結局のところ、視聴者目線のない作品で、広告企業の高齢役員や、政府クールジャパン関係の高齢者から出資を集めるための作品というのが最大の問題点だろう。