ネギ式

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読書感想:奇貨居くべし

宮城谷昌光の小説は何作か読んだことがあるのだが、ここ十年くらいは読んでいなかった。久しぶりに読んだのがこの「奇貨居くべし」である。

まあ、面白いのは確かなんだけど、そんなにノレなかった。第一に宮城谷氏は儒教思想推しである。まあ中国の話であるし、徳のある王や政治家の話は面白いので、それは問題ではない。ただ、この「奇貨居くべし」は秦の宰相となる呂不韋の話なので儒教と対比される思想として法家の思想が出てくるのである。宮城谷氏は法家の思想は冷たいという。確かにそう見えるかも知れないが、秦の繁栄は法家の思想によるところが大きいと私は思うのである。

あと、呂不韋には民主主義の萌芽があるというのだが、この小説を読んでもとてもそうとは思えない。民主主義というのは人民のための政治ではない。人民のための政治は徳政というか、徳のある人が人民のためを考えて行う政治である。それは民主主義とはまったく違うものである。儒教の言う君子は王のことではないというが、まったく王を念頭においていないとは思えない。まあ血筋によらないにしても特別な人間である。徳のない小人である人民が政治を行う上では、どうしても法が必要であり、法を軽んじる呂不韋に民主主義の萌芽があるとは思えないのである。

そう考えると、民主主義云々は人気取りではないかと思える。というのは、呂不韋はハンサムに設定されているし、モテモテで艶っぽいエピソードもたくさん書かれているからだ。

まあ、これに限らず、歴史上の人物を扱った小説は、フィクション多めの若い時代は面白く、史実に記録のある後年はつまらないものだが、これもその例に漏れない。

そうは言っても、宮城谷昌光の中国小説は、他の中国小説、たとえば少し前に読んだ「神雕侠侶」よりもずっと面白いとは言える。

奇貨居くべし―春風篇 (中公文庫)

奇貨居くべし―春風篇 (中公文庫)