ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:椿井文書

興味深い。

需要に対する供給としての偽書だろうなぁ。椿井政隆はかなりシステム的に大量の偽書を作成して売り込んだ人であり、かつ趣味的な部分もあるようだ。

俺なんて、神社仏閣の縁起なんてものは全部が全部眉唾だと思っているので、偽書でも驚かないが、歴史家にとっては大問題だろう。

椿井文書のひとつの面白い点は、椿井政隆が売り込んだ時代と椿井文書が広まった時代がズレていることだと思う。明治時代にかなり広まったようだ。需要の多い明治時代に偽作していればもっと儲かっただろうに。そして今は町おこしの根拠として利用されているようだ。

自治教育委員会がお墨付きを与えるのが問題だと著者は言う。それはそうだが、理系の俺としては、自治体や教育委員会EM菌の普及イベントとかをやっている反知性集団に他ならないのでいまさら驚くこともない。現代に偽書作成工房みたいなのがあれば、自治体はむしろお得意様になるだろう。観光町おこしの需要が大きいのだから。

それはそれとして、学者側の偽書に対する批判体制の確立は重要だと思う。偽書作成自体を歴史の中の行為とみなして研究することも含めて。とはいえ、短期的な成果が求められる現在の日本の大学の研究体制では、椿井文書を利用したくなる研究者も少なからず存在するのだろう。

椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書)

椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書)