SF作家のディックがどこかで言っていたような気がする言葉に「いくらドラッグの恐ろしさを描いても、それを読んでドラッグに手を出す奴がいる」みたいなことがあった。
いや、ディックはうま過ぎるというか、そりゃあ恐ろしく書いてあってもディックを読んだらドラッグに手を出したくなる人もいるだろうさと思うのである。
俺は吾妻ひでおのファンなので、やはりアル中に対する憧れみたいなものがある。
よくよく考えてみると、原因は何であれ堕落した生活に憧れているのかも知れない。つまりは破滅願望があるということだ。もっとも俺の考えでは誰にでも大なり小なりそういう願望はあるはずだ。
その証拠に、そういう堕落した主人公のエンタメが多いではないか。と思ったが、最近のアニメや漫画ではあまり思いつかない。ヒキニートが主役の作品は結構あるか、でもニートは親によって生活が保障されているので、俺の世代が思い浮かべるような堕落ではないんだよなぁ。
俺の世代だと、たとえば「傷だらけの天使」みたいな貧乏探偵。貧乏なので嫌な汚れ仕事もしなければならない。
そう、貧乏に対する憧れもあるんだよ。いや、貧乏に憧れるほど金持ってないけど、貧乏で困っているというほどでもない。困っている人には申し訳ないけど、金に困っている主人公というエンタメ作品に大量に接してきたので、憧れがある。それにドラッグやアルコールに比べれば、貧乏の方がマシな気もするし。まあ、実際に築50年のUR住宅暮らしというのも十分貧乏を堪能できるんだけど。
逆に俺には安定志向はほとんどない。まあ、かつて俺の親が俺を安定した職業に付けようとしたからというのもあるし。プログラマーでデスマーチを何度も経験し、その度に転職してきたからでもある。デスマーチを繰り返しながら出世するよりは、転職失敗で貧乏な暮らしをした方がいいという考えだ。今流行りの給料を上げる転職ではない。
望ましいのは、ある程度不安定でありながら、大きく崩れない生活である。それをモービル生活と言いたい。
モービル、モビール、またはモバイルという言葉は今では別の意味を持っているが、俺が子供の頃は、もっぱらモービル飾りのことであった。俺はモービルと聞くとモービル飾りを連想するのである。
あれ、このAmazonの商品はあまりモービル飾りらしくないな。
もっと不安定な感じのものがあったような気がするが、まあ、どの節でも左右のバランスが取れているので、本質的には安定ではあるんだよな。
冒険は若者がするものというが、若い時に冒険して失敗すると痛手が大きい。なので、かどうか知らんけど、冒険をしないというか、安全な冒険をするエンタメが多いような気がする。安全な冒険とは言い換えると、危険を冒さない冒険である。チートスキルとかね。人生はともかく、エンタメはもう少し危険を冒してもいいんじゃないかと思わないでもない。(なんか主人公がピンチになることに読者が耐えられないとか聞いたような聞かないような)
さて、俺は高齢者なので、一般には安定志向と思われそうだが、年を取ってもやはり安定志向にはなれなかったようだ。どんなに最悪の失敗をしてもせいぜい死ぬだけだから、年寄りこそ冒険に向いているのではないだろうか。
今年は冒険をしよう。
などと考える年始であった。