図書館で借りた本。2022年のネビュラ賞受賞作品らしい。
読み始めての印象は、日本の劇場版アニメみたいだというものであった。主役の3人の女性がアニメの戦闘美少女みたいなのだ。
主役のファトマはエジプトの錬金術・魔術・超自然的存在省のエージェントの女性。同じくエージェントでファトマの相棒となるハディアは24歳の女性。そしてファトマの恋人のシティ(女性)の三人が主要な登場人物であり、それぞれ剣術や体術で戦う。
なんというか、日本の戦闘美少女アニメのキャラの年齢を上げて、百合をレズビアンセックスに格上げしたかのような印象を受けるのだ。
話としては政府のエージェントがひとつの事件を解決するという話である。ファトマは探偵的な役割だが、安楽椅子探偵というよりはハードボイルド探偵に近い。
舞台は1912年のエジプト。40年前にアル=ジャーヒズという魔術師がジン(精霊)の世界の扉を開き、以後魔法と科学の融合した技術が発達してエジプトは列強の一角を占めるようになる。魔法の世界の扉が開かれたので世界中でその地域の魔法生物が存在するようになるが、ヨーロッパ列強は頑固に魔法を認めないので、エジプトの技術力・軍事力が西欧文明諸国を超えているような状況。
これがスチームパンクだというのだが、なんか俺には微妙な印象である。1912年だとこっちの世界ではガソリンエンジン車が存在するんだよなぁ。40年前の1870年頃にはまだガソリン車はなくて、そこに魔法技術が入ったので、外燃機関+魔法で様々な機械が動くようになり内燃機関は発達しなかったということだろうか。
「蒸気駆動宦官」というロボットというかアンドロイドみたいなのが登場するのだが、これが俺の蒸気機関のイメージと合わないのだ。スマート過ぎる。俺の蒸気機関のイメージはもっと武骨なもの。単に蒸気という言葉が雰囲気作りのために付いているだけという印象である。
そして、こっちはうまくいっているのだが、フェミニズムが結構成果を挙げている社会である。その結果として、主役のファトマが女性なのに実力を認められて魔術省のエージェントになれたという訳で、現代的なコンプラ意識がうまく戦闘美少女というアニメ的な設定に繋がっているのだ。
ただ、フェミニズムもあって、どうしても現代的な印象が強い。登場する車も蒸気機関のはずだが、うっかりすると現代的なガソリン車みたいに思えるし、なんだか1980年代か90年代あたりのエジプトじゃないかという気がするのである。
もちろんジン(精霊)はいかにも精霊らしく、封印された壺から出現したりもするし、アラビアンナイト的な色彩はある。エロはレズビアンセックスしかないけど。それもすごく官能的な描写という訳ではなく、コンプラを意識してレズビアンセックスを入れたんじゃないかという勘ぐりをしたくなる程度である。
半分くらい読んだところで、これが日本アニメをベースにしているなら、この伏線はアレの登場に繋がると思ったら、最後にまさにソレが登場していたので、やはり日本アニメはこの作品のベースになっていると俺は思うのである。
そして、この作品の基本となっている話は、ファンタジー世界で最も有名なアイテムの一つのアレを巡る話なのだが、イスラムだからというか、アラビア語だからか、我々のよく知っている名前ではない。まあ、俺は途中で気付いたけどね。
というわけで、様々な既存の概念、スチームパンク・日本アニメ・アラビアンナイトなどをうまくまとめ上げて、戦闘美少女が活躍するエンタメに仕上げた作品という印象である。
俺は文章から映像を想像するのが苦手なので、小説よりも劇場アニメで見た方がより楽しめたであろう。