ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:エルギスキへの旅

森下一仁先生の本。

「エルギスキ」へと向かう旅という意味であって、「エルギスキヘ」の旅ではない。SFマガジン1991年6月号から1994年12月号まで間欠的に連載された後、長らく書籍化されていなかったが、今回クラウドファンディングで書籍化された本である。私もクラファンに出資したので本が来たのであった。

シャーマンの話。なのだが、そんなにスピリチャルではない。むしろ形而下の話だと俺は読んだ。

ゆっくりと話が進むので、ゆっくり読んでいたが、が現れたあたりから話が進展してそこからは結構一気に読んだ。

近未来、《騒乱》という事件によって荒廃した日本から話は始まる。日本にはどうもロシアの少数民族を始めとして多くの国から少数民族が移民というか流れ込んできているらしい。

少年の一人称で語られるのだが、その少年にはシャーマンの素質があるらしく、シャーマンなるようにロシアから来たエルギスキの人々から勧められる。しかし、少年はシャーマンになるつもりはないのであった。

エルギスキというのは低い所という意味であり、同時に低い所に行くシャーマンの儀式でもあり、そういう儀式を行なう民族の名前でもある。

このエルギスキの人たちは高い技術力を持っていて、荒廃した日本の中ではおそらく最高級の技術者集団でもある。

少年が衝動のままにというか、流されるようにというか、セックスを経験する。そして、運命に導かれているのか、それとも緻密な計画によって誘導されているのか、よく分からないままロシアに行く。

というように、スピリチャルっぽいと思えても、それもまたエルギスキの人々の計画通りなのかも知れない。更に、語り手が少年の一人称なので、不思議な体験をしても、実際に起こったことなのか、夢か幻かはっきりしない。

まあ、俺のような科学重視の人間にはすべてが形而下の出来事であって、形而上のことはひとつもないように読めるのである。輪廻とか転生とかの言葉も出てくるけれど、少なくともこの作品内で起こっていることは全部形而下の物理的な現象で説明できると思う。むしろ、他のSFと比べてもいっそう即物的な解釈が可能であると思える。

ぶっちゃけ、エルギスキの連中は結構しょうもない連中だと思う。