図書館でなんとなく借りた本。
1959年のBOACスチュワーデス殺人事件についての本である。
この本は神父が犯人だという前提で書かれている(ただし、犯人とは書いていなくて重要参考人という呼び方をしている)のだが、俺としては神父はシロという印象を持った。
この事件は美人スチュワーデスの殺害というワイドショーが喜んで取り扱うようなネタである。
この本の登場人物全員(著者を含む)が実に信頼できない。
ひどいのはNHKと入管の共謀による神父の写真の放送である。警察による発表前に、入管に貼ってあった要注意人物の写真をNHKが放送したのだ。大スクープである。しかし、不思議なのは出国を阻止するために入管に手配したということになっているが、後に出国を阻止することは出来ていない。この時点では出国を阻止する理由はないのだ。じゃあ、なんで写真が貼ってあったのか。むしろNHKに放送させるために、わざと貼ったのではないかと俺は考えてしまうのである。
「落としの八兵衛」こと平塚八兵衛というのもなんだか信用できない。自白させる名人ってことだ。この事件では神父は自白してないけど。
ともかく証拠が全然ないのである。神父は被害者の交際相手というだけである。
こんなに証拠がないのでは、逮捕出来る訳がないし、逮捕・起訴しても裁判で有罪に出来る訳がない。
それなのに、この本でも犯人扱いだし、当時作られた映画でも犯人扱い。松本清張の「黒い福音」は読んでないけど、タイトルからはやはり神父が犯人という気配がする。
俺の妄想的な推理はこうである。
美人スチュワーデスが殺されて死体が発見された。マスコミは連日の大騒ぎ。容疑者を特定するような証拠は何もない。被害者の交際相手が神父であることが判明する。しかし、警察が神父の周りを捜査しても、殺人の証拠は何も見つからない。マスコミは大騒ぎを続けていて、警察を批判する。
警察は批判を避けるために、神父の情報をNHKにリークする。その方法として入管を利用する。まんまとリークに成功して、神父が犯人という印象をマスコミに与えることが出来た。そして神父に対する事情聴取までこぎつける。しかし、事情聴取の成果はない。
神父は病気療養のため帰国する。
警察は出国を阻止できなかったことを批判されるが、外交問題であるかのように印象付けられるので、警察への批判は多少かわせる。そして犯人とみんなが思っている人物が国外に退去したので、事件は終ったことになり、マスコミは沈静化する。
もっとも、俺も神父を単なる冤罪の被害者だとは思わない。この神父は妙に羽振りが良いのである。なにか金銭絡みの犯罪にかかわっていたのかも知れない。警察もそっちの方で捜査を進めたが、それに気付いた神父が帰国を決意する。
警察も神父もマスコミもwin-winという結末である。