ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:プニュームの地下迷宮

図書館で借りた本。

冒険の惑星シリーズ最終巻。

新しいヒロインの登場である。

この巻の表紙を見て分かった。これは紋章人のトラズだ。少年のように若い男はトラズくらいだから。そうすると前巻の表紙はディルディル人のアナコということになる。

でもこの巻ではトラズもアナコもほんの少ししか登場しないで、主に第二ヒロインのザップ210との二人旅が描かれる。

前半はもう少しで宇宙船が完成するというところで、アダム・リースがプニュームキン(クジンドラ)に誘拐されて地下迷宮に連れ去られ、そこから脱出するまでの話。ここで面白いのは、プニュームキンの習慣というか風俗。プニュームキンというのはプニュームという異星人に従う人間だが、奴隷というよりも植民地人のようだ。プニュームが上位なのは確かだが、プニュームキン内部にも階級があり、その中でも最下位がクジンドラであり、もはやプニューキンとは認められていないようである。

そしてプニュームキンの風習は、礼儀正しく相手を無視するというもの。相手のプニュームキンをじろじろ見たりするのは礼儀に反し、まるでそこにいないかのように目を背けながらお互いに話をするのである。

これはアダム・リースがプニュームキンに変装して脱出する際に大いに役に立つのだが、ご都合主義という印象を受けないのは、そういう風習がいかにもありそうだからであり、その後もプニュームキンの互いに距離を取る礼儀がザップ210との間で描写されるからでもある。

後半は地上での旅が描かれるが、ここで面白かったのは本筋となんの関係もないが、小僧小屋というもの。小僧小屋はサングというずる賢く金に汚い民族の街にあるのだが、その小屋の前を通りかかると、生意気な男の子が駆け出してきてアダム・リースの向こう脛を蹴飛ばして、小屋の中に逃げ込むのだ。アダム・リースが追いかけて小屋に入ると、小屋の中の舞台で子供が囃し立てる。そして入り口では、子供に投げるための泥団子、クソ団子、棘団子を売っているのである。射的というか鬼の人形にボールを当てるやつみたいだが、相手が子供でしかも最初に挑発するところがよく出来ている。

最後はアナコとトラズが完成した宇宙船を守って(隠して)いて、仲間と合流したアダム・リースはヒロインも含めて仲間と一緒に宇宙船で地球に向かうのであった。

思うにこのシリーズの着想は、宇宙人を直接描写するのではなく、宇宙人の影響を受けた人間種族を描写することによって、間接的に宇宙人を描写するところにあるのではないだろうか。

SFの面白さの一つは変わった宇宙人の描写であるが、これは結構難しくて、もっともらしく描写しても人間っぽくなってしまう。また、あまりにも人間離れした宇宙人(知的生命体)では感情移入できないというか違和感が強すぎる。冒険の惑星でジャック・ヴァンスがやったことは、宇宙人に大昔に誘拐されて奴隷化され、宇宙人の影響を受けた元地球人種族を描写するという方法で、よその惑星に住む変わった風俗の人間にもっともらしい理屈を付けたということだろう。

そんな理屈はともかく、面白いシリーズであった。