ジャック・ヴァンスの冒険の惑星シリーズ第3巻。
表紙に描かれている剣を持った人が誰だか分からない。たぶんディルディル人だと思うんだが、剣を持っているような重要な人物は思い当たらない。
今回は今までで最も冒険らしい。つまり命がけのアクションシーンが多い。
前回、宇宙船を強奪しようとして失敗して逃げ出したアダム・リース一行であるが、今回は宇宙船を買おうとする話である。買うと言っても、出来上がった宇宙船を買うのではなく、中古でたぶん故障している宇宙船の船体を買い、それに部品を取り付けて飛べる宇宙船を作ろうというのだ。
しかし、その前に金が必要である。この世界チャイの通貨はシークィンという宝石?みたいなもの。それを発掘できる場所があるというのでそこに行く。シークィンは金みたいなものか、発掘して特に加工することもなくそのまま通貨として使えるようだ。色によって価値が違うとも書かれているが、見てすぐにいくらと分かるのだろう。
このシークィンの発掘が当然ながら危険である。採掘出来る場所は異星人ディルディルの狩猟場となっていて、採掘者はディルディルに狩られるのだ。
そこで採掘するのかと思ったら、採掘は危険に対して得られるものが少ないとアダム・リースは考える。そして、採掘よりもずっと危険が大きく、大量のシークィンを得られる方法を考えて実行する。
最後は命からがら逃げることになるが、大量のシークィンを獲得したアダム・リースたちは、宇宙船工場のある地域に行くのであった。
中古の宇宙船を買うと言っても、それも合法ではないようで、違法な商売をする商人と取引して、中古の船体を買い、それを置いて整備をする倉庫を借りる。さらに技術者も雇う。
しかしこの商人が食わせ者で、大量のシークィンを要求してなかなか部品を集めないし、いらない物を売りつけようとしたりする。
そして手持ちのシークィンでは足りなくなって、アダム・リースは再び採掘場に戻ることになる。重くて持ち切れなかった分を隠して置いたので、それを取りに戻ったのだ。鉱物だから持ち切れないこともある。
アダム・リースが再び宇宙船工場地区に戻ってくると、仲間の一人アナコが捕まっていた。そもそも脱走者だったとか、アダム・リースの思想にかぶれて、ディルディル人の起源に関する異端思想主義とみなされたとか。アナコを捕まえさせたのは商人。
犯罪者は工場地区内の闘技場(ガラスの箱)でディルディルの狩りの獲物にされるのだ。それを助けに行くアダム・リース。もう一人の仲間からも無謀だと言われるが、それでも救出、つまり脱獄を実行する。このへんのアダム・リースの心理描写はあまり詳しくない。仲間だから助けるのか、それとも人間狩りのような行為が許せないからなのか。宇宙船を飛ばすために必要だからという訳ではない。ともかく、助けない訳にはいかないというのがアダム・リースの行動原理なのだ。
これは狩りをする異星人ディルディルについても、同じことで、楽しみのために狩りをするとかいうのではなく、そういう野性的な性質を持っているから狩りをするのだ。特定の状況では特定の行動をしなければならないという原理があるのだ。
アナコを救出した後、商人に残りの代金を払うのをやめて、捕まえて強制的に仕事をさせようとするアダム・リースだが、逆に商人に捕まってしまう。さらに、商人から異星人ディルディルの手に引き渡される。
ここでディルディルの行動原理をついて、アダム・リースとディルディル(人だったかも)との素手での決闘が行われる。巴投げ。アダム・リースの使った技はそうは書かれていないけど、実質的に巴投げだと思う。
いやあ、面白かった。
異星人には異星人の逆らえない行動原理があり、アダム・リースにはアダム・リースの逆らえない行動原理がある。それは正義とか仲間思いとかそういう安直な言葉では表現されない。
商人がアナコを捕まえさせたのも、金や名誉のためというより、異端思想が許せなかったからかも知れない。