ネタバレあり
ナンシー・スプリンガーの児童文学ミステリー。シャーロック・ホームズの年の離れた妹が活躍する話。イラストはラノベ風。
まあ、いまどき、妹ぐらいでは驚きませんよ。これ、児童文学だけあって、ちゃんとした話である。シャーロック・ホームズの時代の女性の地位とかをちゃんと説明した上で、その時代に合わない現代的な感覚を持った主人公を据えて、彼女からみた19世紀末のロンドンを描写している。
なによりもよい点は、シャーロック・ホームズは、タキシード仮面のようなお助けヒーローではなく、家出したエノーラを連れ戻そうとする敵対者としての役割であること。そしてエノーラがまんまとシャーロック・ホームズを出し抜いて逃げ切ること。
ただし、謎解き小説というよりは冒険小説であり、暗号は頻繁に出てくるものの、それはやはり先進的な思想を持って家出した母親との連絡に使われる、まあ他愛のない暗号である。しかし、暗号を解いて出てくるのは、母親が娘に残したお金というのが素晴らしい。そのお金を使って自分で生きていきなさいということなのである。シャーロックは敵対者で、母親はお金しかくれず、一人で事件を解決していくエノーラという構造が素晴らしい。エノーラという名前もaloneのスペルを逆にしたもの。
そしてエノーラが嫌で嫌で仕方がないのに無理やり着せられたコルセットが防具となって命を救ってくれるというのもいい。これって、ファンドーリンの事件簿でもあったことで、コルセットは最強の防具なのかも知れない。
サブタイトルの消えた公爵家の子息の事件は、大したことはないとも言えるが、家出中でシャーロックから隠れようとしているのに、余計なことに首を突っ込んでいくところはさすが主人公という感じである。
この1巻の最後では、エノーラは探しものの事務所を開く。シャーロックが扱わないような事件を扱うということで、人の死なないミステリーシリーズの始まりを期待させる。
しかし、エノーラが14歳というのは若すぎる気がするが、マイクロフトがエノーラを寄宿学校に入れて立派なレディにしようとするので逃げ出したという設定からすると、ぎりぎりありかなという気もする。もちろん、14歳では社会的に活動できないので、大人の女性に変装するのだが、そこでもコルセットやら胸パッドやら尻パッドやらの当時の風習を役立てている。