ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

創作:生命と自由と平等を尊重し、寿命以外ではほとんど死なない生物が滅亡する

ある生物の話をする。仮にその生物をアルとしよう。

アルは高度に倫理的な知的生命体で、生命と自由と平等を尊重する平和な種族である。ただし、生まれた惑星から他の星に移住するようなテクノロジーは持っていない。

アルも昔から高度に倫理的だったわけではなく、かつては野蛮であった。その野蛮な時代に増え続けて惑星全体に広まった。これ以上増えると食糧不足で多くの餓死者が出るという状態になる前に、アルはなんとか倫理体系を確立し、一組の夫婦(つがい)で二人(匹)の子どもを生むという習慣を作り上げた。

アルは恋愛も平等かつ博愛的なので、すべてのアルの個体は夫婦(つがい)になることができる。平和的な夫婦(つがい)の関係は死ぬまで続く。性比も1対1なので個体数は増えも減りもしないで永遠に平和が続くはずだった。

高度に発達したアルの文明では病気も事故も少なく、病気や事故で死ぬ人は更に少なかった。しかし、その確率はゼロではない。また、子どもを作る前に、つまり子どもうちに死ぬものもいた。一方、寿命は無限ではなく、多少のばらつきはあるものの一定の年齢を越えて生きることは不可能であった。

その結果、アルの人口は事故や病気で子どもが死ぬたびに少しずつ少しずつ減っていきやがてアルは絶滅するという予測が出された。

これは多様性が欠乏しているためだ。少ない確率で子どもを三人(匹)生むようにすればいい。生物としての機能では、三人(匹)以上の子どもを作れるので、抽選で三人めを産めるようにした。しかし、アルたちには二人の子どもを持つという思想とそれに基づく生活設計が広まっていたので、三人めの子どもを生むと、その教育や生活水準に影響が出るのである。そのためにクジに当たっても子どもを産まないアルが多かった。

これではいけないと考えた思想家たちが、三人産む会を結成して、その思想に共感した人たちがクジではなく自発的に三人の子を持つという運動を展開した。すばらしい思想の共感者はどんどん増えていき、また子どもは親の思想の影響を受けるため、アルの人口は増加に転じて絶滅の危機を逃れることが出来た。

そう思ったのは、人口が増えて食料が足りなくなるまでことだった。高度に発達したアルの文明では太陽エネルギーおよびそれに由来する自然エネルギーの利用できる限りの食料がすでに生産されていたので食料の増産には限界があった。

再び子どもを二人に制限しようとしたが、自由と平等を重んじるアルの文明では、子どもを三人産むという思想集団を弾圧することは難しい(一人しか産まないという思想集団も発生したが、これは自滅思想であり、数世代で集団が消滅した)。しかし、食糧危機を前に、徹底してはいるが強制ではない教育によって、三人産む会の思想は撲滅され、子どもは二人という思想が完全にアルの生活の中心に収まった。子ども二人という思想は非常に根強くアルに浸透したので、再び人口減少が問題になった時にも、もはや三人の子を持とうとする夫婦(つがい)はいなかった。

こうして再度の人口減少によってアルは滅びた。

非常に小さな確率で起こる事故に対して、それを打ち消す別の小さな確率をもたらす自由な生活習慣を導入することは極めて難しい。