このタイトルは非常に素晴らしいと思う。
クリスティはあまり読んでいなくて、老後の楽しみに取ってあったのだが、もう今読まないとどんどん老眼が進んだりして読めなくなるので読むことにしたのである。
この作品はタイトルに聞き覚えがあるという程度だったが、有名な探偵の登場する作品ではなく、素人探偵(カップル)が活躍する作品である。そして素人探偵らしく、先入観にとらわれたり間違った推理をしたりする。私としては間違った推理よりも無謀な行動がもう見ていられない感じで少し苦手だった。
しかしカップル探偵という設定が結構ミスディレクションを生んでいて面白い。ステディではなくて幼馴染が久しぶりに再会して謎を解き始めるので、二人の関係は確定していない。つまり恋愛小説的な趣もあるわけだ。そして男女それぞれが事件関係者に対して好意を持ったりすることによって、それがミスディレクションになるという仕組みである。
本格的な探偵はもったいぶって推理を語らず、素人探偵はすぐに誰が犯人に違いないとか、誰は悪事をするはずがないとか決めつける。
そしてまた、この作品は犯人に殺された先代探偵の後を継いで、次の探偵が事件を解決するという構造を持っている。タイトルの「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」は先代探偵が残した事件の鍵なのである。私なんかは、これは燃える設定だと思うのだが、あまりこの作品では表に出ていない。先代と言っても赤の他人であり面識はないし、あまり遺志を継ぐみたいな設定を前に出すと、素人探偵らしさと恋愛要素が減るという事かもしれない。
映像的な面白さもあると思う。