または主人公無双問題。
主役の琴子のキャラはよい。アニメにも向いている。
他のキャラが弱いと思う。特にヒロインじゃなくて琴子の相手役の九郎のキャラが弱い。設定もりもりの上に声優が宮野真守なのにそれでもまだキャラが弱い。琴子をからかうあたりは少しいいけど。そしてそれ以外のキャラはさらに弱い。妖怪も単に設定上の役割をこなしているに過ぎない。それ比べたら、あの鬱陶しくて仕方のなかったプリキュアの妖精たちは実にキャラが立っていた。後半の敵役も姿が見えないという設定もあってキャラが弱い。九郎のジレンマみたいなのがあればもう少しキャラが立ったかも知れないが、九郎のキャラ自体が弱いのでどうかとも思う。
つまるところ、この作品は琴子の一人芝居なのである。琴子の恋愛感情もなんか少しは脈があるみたいな描写もあるものの、100対1くらいの圧倒的な関係なので、そういう話として計画されているとも言えるが。
で、一応ミステリっぽい話なので、ミステリ的にはどうかというと、怪盗も天才的な犯罪者もいない名探偵の一人芝居という印象である。これは「俺つえー」系の作品と言えるだろう。戦闘アニメならば、俺つえーでも爽快な戦闘シーンが楽しめるが、これはミステリまたは創作系の話なので、琴子の俺つえーシーンは、琴子が一人でずっと喋っているだけになる。アニメなので、そこにモブの映像とか九郎が戦っている映像とかが入るけれども、その映像はいわば背景に過ぎなくて、実際には琴子が一人でずっと喋っているのである。いや、相槌をうつ役とか解説をつける役とかいるけれど、それは極めて形式的で言わずもがなの相槌、不要な解説に過ぎない。そして敵役の反論も大した反論ではない上に、すべて琴子が想定済みなので、まったく論争になっていない。これは主人公がピンチになることを許さない現代の読者・視聴者の要望を反映した描写なのだろうが、私のようなおっさんにはまったく締まりがないように思える。プロレス的なダメージを受けた演技くらいは欲しいのだが。そうか、主人公がピンチになることを許さない読者・視聴者というのは主人公が必ず勝つという作者への信頼がないからなんだな。これは虚淵とかのせいもあるだろう。脱線するけど「ピンチになっても必ず勝つ名探偵琴子の虚構推理」とかいうように、ラノベのタイトルに「ピンチになっても必ず勝つ」をつければ、最後は勝つけどピンチにもなる主人公のラノベが書けるのではないだろうか。
小説としては、主人公が延々と語るという小説は結構あって、たとえば京極堂の語りは実に長いのだけれどそこには読ませる面白さがある。ただアニメには向いていないと思う。アニメ化されてるけどさ。琴子はキャラとしては魅力的だけれど、その語りには語りとしての魅力がない。虚構を構築するというアイデアとしての面白さはある。そのアイデアとしての面白さが、描写としての面白さになっていない。
敵役をもっと強くすればよかったのではないかと思う。だいたい琴子が話し始めるとセリフの9割は琴子になってしまい、敵役の反論は1割もない。これではフェアな戦いはできない。むしろ逆にセリフの9割が敵役で、琴子のセリフが1割しかないのに、そのどれもが鋭いセリフで相手を追い詰めるとかなら面白かったかも。いや敵役の語りが論理としてではなく語りとして面白いという条件が付くけれど。
通常のミステリでは、犯行という犯人のターンがあって、それから推理という探偵のターンがある。だから探偵のターンで探偵が一方的に喋っていてもそれはアンフェアではない。ところが、虚構推理の鋼人七瀬編では、確かに敵方が一手先んじていたけれども、クライマックスの嘘つき合戦では交互に嘘を突き合う戦いなのある。それはそれで臨場感と言うか緊迫感があっていいけど、そこで探偵側ばかり喋っているのはどうも納得ができない。
琴子というキャラはいいキャラなので、名探偵がたくさん登場するような作品にゲスト探偵の一人として参加したら面白い気がする。