ネギ式

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読書感想:失われた過去と未来の犯罪

ミステリーではなくてSF。第一部は面白かったが、第二部は私の好みではなかった。そもそも記憶=人格みたいな哲学的考察を私は好まない。というのは、私は他人と比べて記憶力が格段に劣るという自覚があるからで、記憶=人格を認めるには都合が悪いのである。

現実には、脳に腫瘍ができて人格が変わったようになるという事例があって、この場合は記憶は変更されていないが人格は変わっているのであるから、記憶は人格ではないというひとつの傍証になるはずなのだが。腫瘍のような極端なハードウェア障害でなくても、記憶ではなくて脳の生物的な相違(これは人生経験によって神経回路が形成されることを含むのでDNAで決まるという意味ではない)が人格の主要な要素だと考えても良いはずである。

それにも拘わらず、記憶=人格でありかつ記憶をコンピュータのメモリみたいに外部に保存できるという設定のSFはとても多い。逆の記憶は人格ではないという設定のSFはあまり見ない。現代のSF作家の描写力では記憶が人格でないという文章表現がまだ出来ないのではないだろうか。そう思ったが、よく考えてみるともっと単純な話で、コンピュータとの連想から、記憶=人格という哲学的考察のほうが、娯楽出版の都合上商業的に有利だからだろうと思い至った。トロッコ問題とか、商業的に有利な哲学的問題とそうでない哲学的問題があるはずだ

 

失われた過去と未来の犯罪

失われた過去と未来の犯罪