ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書感想:アリス殺し

小林泰三らしいよく出来た本。「不思議の国のアリス」をネタにした本はたくさんあるけれど、この本は俺の意味においてとても「不思議の国のアリス」らしい。つまり、人々の会話が実に不条理であるという点において、まさに不思議の国のアリスである。言葉の表面上は論理的であるがゆえに不条理になる会話はルイス・キャロルのものだろう。言語的な作品である。

それにもかかわらず、これはきちんとしたパズルミステリーである。そして、頭のおかしい登場人物の頭のおかしい会話を元にパズルミステリーを解くということは読者にとってかなり難しい。叙述トリックというか、ミスディレクションの一種だろう。だって変なことばかり言っているのでどの発言も信用できないし。

 

アリス殺し (創元クライム・クラブ)

アリス殺し (創元クライム・クラブ)

 

 なんというか、作品としての完成度は高くて不満はないのだが、ものすごく面白いという感想ではないのである。不思議だ。「してやられた」とか「くやしい」とかいう気もしない。「小林泰三だ、小林泰三の作品だ」というのが感想である。