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読書感想:茶の世界史

題名:茶の世界史

副題:緑茶の文化と紅茶の社会

作者:角山栄

出版:1980年12月20日

タイトルは「茶の世界史」だが、内容は「日本を中心とした茶の世界史」とも言うべきもの。二部に分かれていて、第一部は「文化としての茶」である。ここでは日本の茶の湯とイギリスの紅茶文化が比較されているが、中国の茶の文化のことにはほとんど触れられていない。あくまでも日本の茶の湯とそれと対比されるイギリスの紅茶文化である。確かに、日本の茶の湯、茶道というものは日本のお茶にとって極めて重要な役割を果たしていると言えるだろう。それは第二部にも関係してくると私は考えるのである。まず第一部においてイギリスで緑茶ではなく紅茶が一般的になった理由が述べられている。そこでは緑茶だけでなく、コーヒーやココアも飲料の文化として比較されている。しかし、私はここに重要な点が抜けていると思うのである。大衆嗜好品として飲料を考えるときに、重要な点としてはもちろん価格もあるが、次に重要なのはカフェイン含有量であろう。しかしこの本にはカフェインの含有量の比較の話はない。そしてカフェイン含有量を考えるならば、緑茶の場合、抹茶かどうかという点も重要である。抹茶は飲み方が違うのでイギリスには伝わらなかったようだ。そのことは少し書いてある。

第二部では、明治以後の日本の茶の輸出について書かれている。まあ、緑茶を輸出しようとして失敗した話である。ここでは抹茶の輸出についても書かれている(と思う)が、混ぜものがあり品質が悪かったという話である。また紅茶も製造して輸出しようとしたが、それもインド産に品質で及ばなかったようだ。最後に現在(出版時)では、アメリカなどで茶の湯に興味が持たれているという話になっている。

茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界 (中公新書)

茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界 (中公新書)

 

 あ、新版が出ているのか、俺が読んだのは旧版だわ。なので、以下はあくまでも旧版を読んで考えたことである。

まず、緑茶の輸出が失敗した理由のひとつには、カフェイン含有量がコーヒーや紅茶に劣るという点があるだろう。玉露や抹茶のカフェイン含有量は紅茶を上回るのだが、これは製法というか栽培法に手間がかかり高級品である。日本には茶道による茶の階級があり、最高級品は国内で高値で売れる。そのため、茶の製造者は最高級品を輸出する必要がなかったのであろう。また、著者が強調するような茶道という高度に精神的な文化のある日本と違って、外国に最高級の茶を輸出してもその精神性を理解できないだろうという思い込みがあったと私は推察するのである。外国の文化を見下した結果、混ぜ物をしたり粗悪品を輸出する結果になったと思われる。少なくとも、この本の内容からはこういう推理ができると思うのだ。

著者が持ち上げる日本の茶道文化こそが、日本茶の輸出の最大の障害だったのではないだろうか。もっとも著者が本当に茶の湯を素晴らしいと思ってこの本を書いたのか、それとも、日本で茶に関する本を書く以上は茶の湯の文化圏に配慮しなければならない事情があったのか、そのへんは察するしかない。

ところで、この本が2017年に改訂版が出たということも、昨今の日本の事情を反映しているのではないかと勘ぐりたくなる。