印象深いけど、よくわからんのよね。
1話のバスに乗るところで検閲というか乗客のチェックをしていて、そこでもうこの世界が不穏なところだというのが分かるんだけど、腕章で身元チェックってザル過ぎるだろ。写真機ある世界なのに。
ルイコン教という宗教が結構重要なのだが、この宗教の信者と信者でない人がいる。しかし、この世界はルイコン教の世界観が実現している世界なので、ルイコン教以外の人が何を信じて生きているのかよく分からない。そういえば、葬式をしたり墓があったりするけど、それはルイコン教とは違う宗教みたいである。
北政府というのが専制君主制なのだが、どうもこの話の時点では専制君主は政治を行える状態ではないようで、じゃあ誰が政治をしているのかというのもよく分からない。北政府に対するレジスタンスは、皇帝ではなく政治を動かしている連中を倒すべきなのではないだろうか。
南政府もなんか専制ではないらしいということしか分からないのだが、どうも私には全体主義のように思えるところがある。
北政府と南政府とルイコン教のどれもが人命軽視という点では共通していて、そのへんは実にディストピア的で作品としてはよい。しかしそれでは主人公などの人命尊重という考えはいったいどこから来たのだろうか。
そしてまた主人公のアキユキがなんとも頼りない。1話ではいかにも主人公的な意志のはっきりした人間なのだが、ザムド化してからはヒルコの意志と共存する必要があるからか、自身の意志がはっきりしない、というか何をしていいか分からない様子。
まあ、最後まで見ると、どうやら本当の主人公はヒロインかと思ったナキアミらしいんだけど。ナキアミも人命尊重みたいな信念はあるもののずっと迷っていてはっきりしない。最初ヒロインかと思うのだが、どうも違うようだ。恋愛より信仰信念を選ぶという点ではまさに主人公。
で、本当のヒロインはハルなんだけど、ずっとアキユキと別行動しているし、なんともすっきりしないアニメである。しかし、この差別は蔓延しているし、死体は野ざらしになっているような嫌な世界の嫌な感じは非常によく出ていてそこはとてもよい。自然は美しいし、人間も個人としてはだいたい善人だったりするけど、組織がいやらしいところとか。
別居中のアキユキの両親とか、ルイコン教のテロリストとかいろいろな人間を描いているんだけど、まとまりがない気もする。
傑作の要素も多々あるのだが、傑作になり損ねている作品という気がする。まあ、そのなんともいえない完成度が、俺には傑作以上に心に残るのであるが。