ネギ式

適当に生きるおっさんのブログ

読書記録:ベガーズ・イン・スペイン

図書館で借りた本。外出して体を動かすために、図書館で本を借りればいいという発想をしたわけだが、やはり図書館まで往復するのは面倒だな。

 

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

 

 ナンシー・クレスの短編集。いろいろ賞を取っている短編が入っている。表題作は遺伝子操作で眠らなくてもよくなった人たちと社会との軋轢みたいなある意味では新人類テーマなのだが、ひねりというか、この作者ならではの考え方が入っている点に独自性がある。眠らない遺伝子操作というのはシリーズになっているのか、収録作「眠る犬」が続編っぽい。また、この作品集の最後に収められている「ダンシング・オン・エア」も遺伝子操作の話である。

「ベガーズ・イン・スペイン」というのは、遺伝子操作されていない一般の人々をスペインの乞食に例えているわけで、よくある迫害される(かわいそうな)新人類とは趣が違う。1991年の作品だというが、今のアメリカの状況にもなぜか一致するものがあるように思う。

しかし、登場人物にも作者にも全面的には共感できない。ナンシー・クレスが評価されている理由はそこにあるのかもしれない。よくある価値判断ではないという点で。あるいは、俺が現代的な価値観からすでに離れているせいかもしれない。なんとなく居心地が悪いのである。そして同時にそれがナンシー・クレスの味という気もする。

まあ、そういう点とは関係なく、突っ込みたいのは、「ダンシング・オン・エア」での、先端科学の論文が外国語で書かれているという記述である。ここでいう外国語は英語以外という意味だから、違和感バッチリだ。でも、科学者でない多少知的なアメリカ人はそう思っていても不思議はない。知的でないアメリカ人は世界中で英語(米語)が使われていると思っているだろうし、科学者なら科学論文は英語で書かれるという実態を知っているだろう。自国語で論文を書けるなんて英米だけの特権なのだが、自分たちの持っている特権は意識されないものだ。ついでにいうと、この作品の中でフランスで開かれる科学技術の国際会議で、発表が発表者の母国語でなされて、聴衆は翻訳機を使って聞いているというのもまた羨ましい話である。